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GJ研究会:「令和日本のビジョン 外交安全保障、価値観の大転換」

日時:2022年8月26日 10時から12時45分
場所:zoom
参加者:13人
テーマ:令和日本のビジョン 外交安全保障、価値観の大転換

議事要旨
2人から報告があり、その後議論を行った。

(塚本)首相官邸のホームページでは、外交安全保障の基本として、次の3つが挙げられている。(1)普遍的価値を守り抜く(2)我が国の平和と安定を守り抜く(3)地球規模の課題に向き合い、人類に貢献し、国際社会を主導する。このうち、特に、ウクライナ戦争が起こった後、我が国の安全保障が差し迫った課題になっている。先日、五百旗頭先生は終戦の日にテレビ出演され、「77年前に日本は滅んでしまった。二度とこれを繰り返してはならない。」と述べられた。戦前に日本は戦争を選んでしまった。今の日本は、戦争を仕掛けられる危機に直面している。大事なことは、スッポンのように、日本に下手に手を出すと、ガブっと噛みつかれると相手に思わせるような防衛力を持つことと言っておられた。中国とどう向き合うかが大事だ。中国は2049年の建国100年記念までに「一つの中国」を目指している。香港での容赦のないやり方が共産党中国の本質だ。先日、香港映画「憂鬱乃島」を見た。印象的だったのは、あなたは何人ですかという質問に答えるところ。中国人でも、英国人でもなく、香港人と答える。英国領時代に学校で英国国歌を歌うシーンもあった。台湾問題の今後の展開がどうなるか。台湾有事になれば、沖縄の米軍が巻き込まれる可能性が大きい。先日のペロシ下院議長の台湾訪問で、日本の排他的経済水域に5発のミサイルが発射された。これまで、日中関係については、安全保障については対中対決路線、経済では日中協商ということで進めてきたが、経済でも経済安全保障の考え方が強まっており、対中強硬路線を取らざるを得なくなりつつある。先日、佐野大使から、これまでの大国間の対立は16回あったが、そのうち戦争を回避できたのは4回のみという話があった。ただ、長期的に中国共産党体制がいつまで続くか、見極めることも重要だ。エズラ ボーゲル氏は、鄧小平には若い頃パリに居た経験があるが、習近平は、若い頃地方で厳しい生活しか経験していない、この2人の差は大きいと五百旗頭先生に言っていたそうだ。国分先生は、指導者の交代のルールが決まっていないところに、今の体制の脆さがあると指摘しておられた。

アメリカとどう付き合うか。日米安保条約は日本の外交安全保障の基本であることは言うまでもない。ただ、アメリカにはアメリカの国益があり、日本には日本の国益がある。対米重視はよいが、対米優先であってはならない。例えば、サハリン2は、日本のエネルギー確保にとって重要なので、制裁の対象とはしないとのアメリカへの働き掛けも大事だ。核兵器禁止条約について、ドイツはオブザーバー参加している。唯一の被爆国として、日本もオブザーバー参加するのはどうか。アメリカの歴史を見ると、「戦争をしないアメリカ」が本質ではないか。今回、ウクライナについても、バイデン大統領は、「ロシアが侵攻しても、米軍は派遣しない」と言ったのは、失言と言われているが、本音を漏らしたとも言われている。もちろん、こうしたときのお決まりのセリフ「あらゆる選択肢はテーブルの上にある」と言った方がよかったのはいうまでもない。

「岩倉使節団」を契機とした日本の近代化は、多くの開発途上国のモデルとなった。今も日本の経済技術協力への期待は大きい。アセアン諸国の信頼する国として、中国19%、日本16%、米国14%。日本の若者のもっと海外に行ってもらいたい。2004年の海外留学生82945人が2019年には61989人に減っている。ヨーロッパでは、大学間交流プロジェクトエラスムス計画によって若い学生がとても逞しく育っている。自分の経験でも、日欧産業協力センターの企業研修プロジェクト(ヴルカヌス計画)によって、若い学生が一年経つととてもしっかりした顔付きになっている。

その後皆さんから、次の議論があった。

-首相官邸の3点の中に、「自由と独立」いう言葉がないが、これこそ大事な点であり、入れるべきだ。普遍的価値として、民主主義、法の支配などが挙げられるが、これらは普遍的価値ではなく、舞台装置に過ぎない。本当の普遍的価値は個人の尊厳だろう。「日本が滅んだ」との議論だが、日本は滅んでいない。戦前の日本が戦争を選んだという点についても違和感がある。戦争を選ばざるをえないようにさせられた面があるのではないか。中国の南シナ海への進出は法の支配を無視したやり方で受け入れがたい。台湾有事は、沖縄有事と考えてよいだろう。中国については、日中協商は今後益々難しくなるのではないか。経済安全保障の観点から、厳しい対応が必要になるだろう。中国共産党体制については、中国経済が国を支えうるのか、恒大の問題などが出ており、なかなか大変だろう。核兵器禁止条約については、この条約に入った途端に、米国による核抑止から離脱することを意味するので、日本としては、そのような選択はし難い。ドイツは左派政権なので、オブザーバーにいるが、日本はそのようなオプションは取るべきではないと考える。アメリカのモンロー主義だが、当時は、古い欧州には関わりたくないという考え方があったが、アメリカという国は、外に出るときと、内に籠るときがあり、波のある国と考えた方がいいのではないか。アセアンの信頼する国で、中国19%、日本16%だが、アメリカと日本を合わせると30%と考えた方がいいのではないか。

-防衛問題だが、今年の12月に防衛大綱などの見直しが行われる予定であり、防衛力の強化が打ち出されることは、基本的に正しいと考える。ただ、軍事力だけで日本を守り切れるかというと、一定の限界があることも認識しておくことが大切だ。ミサイル攻撃を100%防ぐことは、困難であり、原発などを攻撃されても、守り切るのは難しい。日本の核保有という議論もあるが、日本のように狭い国土で人口が密集している国では、核のパリティを実現することは困難であり、核保有については、現実的ではないと考える。軍事力だけでなく、外交力も含めて、安全保障を考えることが必要だ。ただ、中国や北朝鮮のように体制の異なる国と、実際にどういう形で対話をして安全保障体制を構築するかは、容易でないことも確かだ。日本の安全保障戦略を考える場合、防衛力の強化に焦点が当たりがちだが、自国の脆弱性を考えることも重要と考える。明治の指導者達は日本の弱さを十分自覚して、必要な対策を考えたと思うが、今は、防衛力を強化して相手を抑止する方にばかり議論が向かっているような気がする。自分の身の丈に合った服を着る、すなわち、自国の体力にふさわしい安全保障体制を築くことが必要と考えるが、今はどうも、そういう考え方があまりなく、もっと頑張れば出来るというような形で議論が進んでいるように思い、懸念している。

-民主主義などは、普遍的価値ではないという議論、なるほどと思った。身の丈に合った防衛をという議論も大事だと思った。米中対立の中で、日本が両国が共存出来るように努めることが大切だ。

-核兵器の問題だが、プーチンでさえ、核を使用することには、慎重だ。核を使ったら、世界の破滅に繋がるからだ。すなわち、今や核兵器はホワイトエレファントのように、使えない兵器なっているのではないか。こうした無用の長物の核の抑止論に縛られ、唯一の被爆国である我が国が何もできないのは、おかしい。抑止論だが、抑止力にとらわれている限り、無限の軍事拡大に陥るおそれがある。保阪さんによると、明治以降の日本の77年は、帝国主義により戦争に向かって行った時代、戦後の77年は、平和の時代、2200年まで来年からちょうど77年、日本はどこに向かうのか。若い人達に考えてもらうことが大切だ。このためには、政治についての教育や、明治以降の近現代についての教育をもっとやるべきだ。明治維新の意味は若者が自らの未来を作ったことだ。今の若者達に、自らの力で未来を切り開くことを期待したい。小学生には、得意なものをやるようにし、中学生以降は、議論をどんどんやるようにしてもらいたい。

-核兵器が無用の長物という議論について反論したい。ウクライナを見ても、ロシアもNATOも核を持っているが故に、ある種の制限戦争をしていると考えている。核の抑止が働いている。日本がアメリカの核の傘から離脱することは、北朝鮮や中国の脅威を考えると現実的ではない。もちろん、長期的には核がない世界が理想だが、この理想と現実の間をどう繋いでいくかが、我々の直面している課題だと考える。

-人に信用できる人とできない人があるように、国にも信用できる国とそうでない国がある。ロシア、中国は、信用できない国だ。そういう国に囲まれているのが、我が国の現実だ。核の抑止は明らかに働いている。アメリカを考えるとき、大事なことは、アメリカは一枚岩ではないということ。民主主義の国だから、色々の意見があるというのが、アメリカだ。

-ウクライナの停戦を1日も早く実現するべきだ。国連の改革を行うべき。アメリカが本当に日本を助けてくれるか、よく考えるべきだ。

-日本の課題は、G 7やダボス会議などのグローバルな場で、堂々と意見が言える人材が少ないことだ。もっとグローバル人材を育てる必要がある。日中は今年、国交回復50周年を迎える。先日の楊、秋葉の7時間に及ぶ会談をどう見るか?

-長時間会議を行い、互いの誤解を避けることは、よいことだ。気を付けるべきは、中国が米国と日本の離反を狙っていること、これは、米韓についても同様だ。このような中国の狙いを十分認識しておくことが大切だ。

核の抑止論について、猜疑心によって、無限の核拡大の懸念があることはその通りだ。このため、中国に対し、軍備管理交渉を行うべきと米国に提案している。これによって、核のみならず、通常の兵器、宇宙、サイバーなども含めた軍備の管理を狙っている。問題は中国がこのようなやり方に慣れていないので、査察の受け入れなど、この交渉の前提にも消極的な点だ。宇宙の平和利用、ミサイルの早期警戒など中国に関心のある項目を取り上げて、交渉の場に就かせる努力が必要だ。核はホワイトエレファントだという議論があったが、「安定不安定逆説」がある。今のウクライナは、戦略核レベルでは互いに使えないということで、安定している。しかし、このために、戦術面では、不安定になっている。ロシアの保有する核は、広島(14キロトン)、長崎(17キロトン)より遥かに小さい0.5トンや0.3トンの戦術核だ。これの使用可能性を、生物化学兵器と同様に、関係者は懸念している。今年の3月、バイデン政権は統合抑止という構想を打ち出した。軍事だけではなく、経済面も含めた抑止力を展開しようとしている。日本もこれに協力して、東南アジア、島嶼国に働きかけをすることが望ましい。

-外交安全保障を論ずるに当たって、4つの事実関係を指摘しておきたい。まず、この前の戦争というとき、多くの人は、対米戦争を思い出すと思うが、その前に十数年、対中戦争や韓国、台湾などとの関係があったこと、そうした国々の国民が日本をどう思っているか、考えておくことが必要だ。次に、敗戦のとき、日本の外で何が起こっていたか。五木寛之氏は平壌の近くで、国から捨てられて悲惨な経験をした。彼は、棄民だったと言っている。三つ目は、戦後77年、何とか平和を保ち、戦争が回避出来たこと。四つ目は今軍事費をGDPの2%とかの議論があるが、日本は世界の中で6~8位ぐらいの軍事力を持っている。この事実を踏まえて、考えることが大事だと思う。

-(森本)コメンテーターの役割を求められたが、外交、防衛の専門家の方から、素晴らしいコメントがあったので、それほど付け加えることはないが、米国のトップはしばしば交代する。日本として、日米安保条約に安住することなく、しっかりと日本自身の外交安全保障戦略を持つことが重要であることを指摘しておきたい。

次に、泉さんから、価値観の大転換と題して、次のような報告があった。

(泉)「つぶやき」ということで、いくつかの提言をまとめてみた。一言で言うと、「価値観の大転換」だ。我々は、GDPの数字に一喜一憂したり、世界何位かなどにこだわって来た。しかし、一回ゼロベースで考えてみてはどうだろうか。さっきも話があったが、民主主義も資本主義も、所詮道具に過ぎない。主人公は人間。しかし、人間も自然の一部であり、自然界の大摂理の一員に過ぎない。人間は、科学技術の進歩や経済成長を追求することが善だと思っているが、そうではないのではないか。一番大事なものは、ありきたりな言葉だが、幸福だ。幸福というと、ちょっとスタティックな感じもあるので、生きがいと言ってもよい。そして、人は一人で生きていけない。家族があり、コミュニティーが大事だ。これがさらに広がると、地方自治体であり、最後は国になり、国際社会になる。人間にとって、大事なもう一つのことは、社会が戦争のない平和であることだ。個人が幸福であり、社会が平和であること、この二つが人間にとって大事な目的であり、それ以外のものは手段に過ぎない。我々は、どうも手段を目的と勘違いしてきたのではないか。この際、ゼロベースでこれまでのやり方を振り返って、一番大事なものは何か、よく考えることが必要ではないか。
次に、12の提言をしたが、今日はその全部について触れる時間はないので、一部について、お話ししたい。
まず、延命至上主義からの解放だ。過剰医療をやめて、尊厳死を認める方向が望ましい。次に教育問題。英語を教えているが、本当に英語が必要な人は何%いるだろうか。モチベーションさえあれば、NHKの講座でも十分学べる。昔は師を求めて、私塾を渡り歩いた。本当に学びたいことが学べるような教育体制を作るべきで、教育改革が必要だ。さらに、金はほどほどあればよい。アメリカの超金持ちは、金は持っているが、何らかの問題を抱えていると言われている。道楽というか、金にならないが人の役に立つ仕事が最高だ。GDPよさようなら、QOL(クオリティ オブ ライフ)よコンイチハ。数字で表せない価値、質の高い暮らしが大切だ。テイッシュもビニール袋も安過ぎる。こんな貴重なものが安過ぎるために大量消費されている。資源保護のためにしっかり税金をとるべきだ。さらに、国連改革、安宅和人さんは、シン ニホンということで、日本の改革を主張しておられるが、シン コクレンという国連改革が必要だ。米中の対立だが、これは幕末の薩摩と長州の対立のようなものだ。日本は、土佐や肥前のような立場だ。うまく両者の間に入って仲介の役割を果たすべきだ。

これに対し、以下の議論があった。
-自分は以前「人生三色計画」ということで、45才、60才、70才で違う人生を生きるのが面白いとお話しした。老年になったら、これまでのご恩返しということで、ボランティアをお勧めしたい。城山三郎は、老年期の生き方として、「活き活き」「卑しくない」「生涯一書生」と言っている。

-外交安全保障はやはり専門家の意見が大事で、素人がなかなか論じることは難しい。泉さんのつぶやき、面白かったが、やはり、自分の意志と能力を保ちつつ、自立の精神を持って努力することが大事だと思う。社会への恩返しも大事で、自分もその気持ちで、日々努めている。

-日本が北朝鮮や中国から攻められるとしたら、日本の価値とは何だろうか。我々自身がこの国を守るため、もう一度、日本の価値とは何か、よく考える必要があるのではないか。

-中国の共産党体制がいつまで続くかという問題について、経済がおかしくなって暴動が起こる可能性もあるが、その際に、外部に注意を外らせるために台湾に侵攻したりするおそれがある。こうした動きに対して、日本はどう対応するか考えておくことが大事だ。

-(森本)泉さんの12の提言、いずれも重要なポイントだと思うが、これをビジョンのような形で考える場合、どういう方向を目指すべきというか、色々考えてみたが、一つのアイデアとしては「若者が希望を持てる国」ということかなと思っている。しかし、イェール大学の成田祐輔氏は、「22世紀の民主主義」という本で、日本は鼠色の雲に覆われている、停滞と衰退の積乱雲だと言っている。一番のポイントは、若者がマイノリティになっていることだ。少子高齢化の影響で、日本人の平均年齢は48才で、30才未満の若者は26%しかいない。選挙では若者の声は反映されないので、成田氏はアルゴリズムを使ってデータ分析し、政策の決定をすることを提案している。

-大変、興味深い提案だ。こうした政策を実現するのが政治家だ。泉さんの提言の11番目に今最も重要な仕事は政治。そこに劣等な人材?が巣食っているとある。これを何とかするための方法を具体的に考えないと日本は変わらない。本来は、政治家が大きな方向の政策を掲げて、選挙でこれを選択するという二大政党制が他の国では定着しているが、日本ではそうなっていない。

-泉さんのつぶやき、個人としては共感することが多いが、国家運営となると、ちょっと別の面も考える必要がある。例えば、GDPとQOLの関係だが、QOLを高めるために、GDPを上げる必要もある。日本は今、一人当たりGDPが21位ぐらいだ。これをもっと高めることにより、QOLも高まる。政治家の劣化は 同感だ。このためには、教育でノーブレスオブリージを教え、日本の将来を考えることを教える必要がある。スイスには、そのような教育があった。さらに、これだけの政治家が必要か、という問題など課題は多い。「日本の良さ」はたくさんあったが、明治以降の近代化、さらには、敗戦後に相当失われている。三島が数々の作品で取り上げたように、こういう失われた価値は何か、しっかり考えていく必要がある。

-(泉)さっき、森本さんから、一言でいうと、今後日本はどうあるべきかという問いかけがあった。自分は、「モアモアから適適」という考え方だ。量を追求するのではなく、質を目指すべきと考える。三適という考え方もある。量と質とタイミングを適切に行うというものだ。さっき人生三色計画が示されたが、正に人生のそれぞれのタイミングで適切な行為を行うことが望ましい。ノーブレスオブリージも大変大事だ。江戸や明治のリーダーは正にそのような形で社会をリードして行った。

-(塚本)今日は、皆さんから色々議論が出た。これからの日本をどう考えるかという点について、岩倉使節団は各国を隈なく観察して良いところを取り入れることに全力を尽くした。我々の今後の大きなテーマは、いかにして幸福な日本を作り上げるかだが、その一つのモデルがデンマークなどの北欧だ。波頭氏の「大きな物語」でも北欧モデルが取り上げられている。その意味で、もっと北欧モデルから何を学ぶか、議論して行きたい。

(文責 塚本 弘)

 

GJ研究会:「波頭亮氏の語る日本の未来」

日時 2022年7月22日(金)10時から12時30分
場所 zoom
参加者 17人
テーマ 波頭亮氏の語る日本の未来

議事要旨
2人から報告があり、その後議論を行った。

(塚本)
12月のシンポジウムにご参加いただくことになった波頭亮氏の著書、YouTubeを参考に、同氏の日本の未来への考え方をまとめてみた。一言で言うと、西洋合理主義は今や様々な問題に直面しており、日本はこれとは異なる考え方を持つべきだということである。先日お会いしたとき、友人の元同志社大学教授の中田考氏はイスラム教徒だが、イスラムの考え方の方が、人生をハピーに生きられると言っておられた。今、時代は大きな変わり目にあり、資本主義も、民主主義も行き詰まっており、「大きな物語」が必要だ。波頭氏と磯田道史氏との対談では、江戸時代にも同じような停滞の時代があったとのこと。その大きな要因は、社会の発展にあまり関わっていない武士が禄を喰み、黒船の脅威にも役に立たない刀で対抗しようとしたことだ。今、大企業で働く人たちも、発注するだけで、クリエイティブな仕事は下請けにやらせているようなところがある。資本主義は、これまで多くの国の発展を支えて来た。しかし、二度のオイルショックや軍事費の増大による財政赤字などを契機に、レーガンやサッチャーが新自由主義経済政策を行った。この新自由主義が90年代になって暴走し始めた。アメリカでS &Lの破綻、エンロン事件などが起こり、当初は経営者の責任が追及(S &Lは300人以上が財産没収、エンロンCEO禁固刑)されたが、リーマンショックでは、刑事罰がなく、多額の退職金で勇退が認められた。新自由主義がもたらす格差と貧困は大きく、米国の上位1%が、国の資産の35%、次の19%が51%を所有しており、残り80%は、国の資産の14%しか所有していない。日本でも2つの格差がある。先ず、企業と国民の格差。企業の内部留保は1997年から2017年までで、143兆円から446兆円に増えているのに、雇用者所得は年間平均467万円(1997年)から441万円(2017年)へと減っている。非正規社員数は1152万人(1197年)から2090万人(2020年)に増えている。富裕層と貧困層の格差も増えており、2000年から2015年までに金融資産ゼロ世帯が2.8倍になり、逆に金融資産1億円以上の世帯が1.5倍になっている。民主主義も機能不全だ。社会運営のあり方を実際に決定し、「自由と平等」を手に入れているかと言われて、明確にイエスと言える人は少ないのではないか。どうすれば、日本の格差が是正されるか。波頭、スズキ トモ、山崎元の「新しい経済をrethinkせよ」(YouTube)では、企業の内部留保(2017年 446兆円)を有効活用すべき、行き過ぎた配当重視を改めるべしと主張。ユニリーバのCEOは「配当を減らし、短期利益主義との決別」を主張し、当初は株価が8%下落したが、その後株価は回復した。北欧のオルタナティブも注目すべき。北欧諸国は、大きな再配分と企業活動の自由化を両立させ、1人当たりGDPは高く、幸福度ランキングでもフィンランド1位、デンマーク2位など。AIのインパクトは大きい。かなりの労働がAIに代替される可能性があるが、大事なことは、AIという社会を革新するテクノロジーをいかにポジティブに活用するかだ。新しい時代の大きな物語をどう紡ぎ出すか。波頭氏と林千晶さんとのYouTubeでは、これからはGDPを目指すのではなく、QOL(クオリティー オブ ライフ)を目指すべきとする。ある営為を行うことが、何かのための手段ではなく、それ自体が究極の目的であるようなエウダイモニア(幸福の行為)を目指すべき。その際、コミュニティーの役割が大きい。林千晶さんは、飛騨市の事例を挙げているが、東京でも、多摩ニュータウンで、使われなくなったスーパーを住民の手でコミュニティーの場として活用した事例が新聞に載っていた。世田谷区も、住民のコミュニティー活動をバックアップすることに熱心で、妻がかかわっている鉄塔ひろばにかなりサポートしてくれている。安宅和人氏の「シン ニホン」では、5つのアクションを提言している。1 年齢性別による雇用差別を禁止する2 高齢者の活躍を生涯サポートする仕組みとテクノロジーを生み出す3 生まれたときから年金を積み立て、運用する仕組みを構築する4 技術の力で身体の問題を治す試みをさらに進める5 尊厳死を合法化する。岸田内閣も新しい資本主義を具体化する政策を進めようとしている。

(泉)
議論に当たって、3つのことを考えたい。1 現代は「人類的な危機」にあるという認識。ロシアとウクライナの戦争は、最早、第三次世界大戦に入っているというべきか。トリプルクライシスの実態。(1)大自然からの逆襲;資源収奪、地球汚染、大気候変動、異常気象など(2)微生物からの反乱;コロナからの波状攻撃(3)議会制民主主義国家と独裁専制主義国家との激突 2ユーフォリア・ノーテンキの「極楽日本なる幻想」の終焉(1)国債担保の異次元異常の大盤振る舞いとポピュリズムの20年(2)三代目的放漫放縦国家の「暖衣飽食・娯楽サーカス」大作戦(3)アベクロの巨大賭けの膨大なツケが回ってきた!(円安とインフレの大進行で日本の資産が買い取られる)3 明治維新のゼロベースの大革新が必須という認識(1)明治維新的(廃藩置県的)、戦後のGHQ的大手術の必要がある(2)価値観の大転換;GDPからQOLへ、モアモア文明から適適文明へ。日本は米国や中国とは異なる。適度の大きさの国としての発展を目指すべき(3)地球的な哲学(理念)と壮大なビジョンを考究すべし。〜「シン・ニホン」並びに「シン・コクレン」を構想せよ〜

その後、皆さんから次のような議論があった。
-デンマークの話があったが、「米欧亜632日の旅」の部会では、次回北欧を取り上げる予定。デンマークについては、以前佐野元デンマーク大使から幸福度世界一の理由として、ヒュッゲという言葉を聞いたのが、印象的だ。これは「何人かが集まって穏やかな時間を過ごそう」というものだ。コミュニティーの話があったが、新潟の旧山古志村では、錦鯉のデジタルアートを仮想通貨で売り出し、購入者には市民権を与えるというプロジェクトが実施されている。今や、語っているときではなく、実践する時代に入っている。

-世界の人口を見ると、自分が子供の頃は、20億人、これが40億人になり、今や79億人になっている。資源や水が足りなくなるのは当たり前。成長は無理だ。日本でも、GDPが増えても、反対に幸福度は減っていくという研究(幸福のパラドックス)あり、政府の資料でもこのような分析がある。大事なことは、働く、学ぶ、楽しむの3つの要素を人生の段階に応じて、変えていくことだ。具体的には、45才では、会社の中での出世に見極めをつけて、会社と社会のバランスを自分なりに考えること、60才では、さらに、学ぶ、楽しむのウェイトを高め、70才では、働くのではなく、ハタを楽にする考え方が大事だ。

-資本主義、民主主義国対独裁専制主義国の対立が深まっていることが大きな懸念だ。

-西側諸国のリーダーのアメリカの分断が広がっていることが心配だ。アメリカのリーダーシップがこれからどうなっていくのか。

-資本主義の暴走、民主主義の機能不全と、AIはどうかかわっているのか。ちょっと、よく分かりにくい。→資本主義の暴走によって生じた格差を再分配政策などにより是正するのは、政府の役割だと思う。具体的には、累進課税を高めるなどの方策もある。また、企業が、紹介したユニリーバのように、配当政策を改めることも、あり得る。AIは、今後、人々の労働を代替することになるので、究極的には、ベーシックインカムということで、再配分政策にもかかわってくる可能性がある。

-先程紹介のあった山古志村のシステムは、とても重要な動きと認識している。すなわち、ブロックチェーンの技術を使って、賛同する人々からお金を集めて、市民権を与えるというもので、資本主義の次の時代の分散型自立組織と考えている。また、安宅和人氏の本によると、日本では2000兆円の金融資産が活用されないままだが、アメリカでは、大学でも資産をうまく運用して、ハーバードやMITなどは、東大の500から600倍もの大きな運用金を持っている。失われた30年の間、日本は、金融の力を全く発揮して来なかった。スェーデンの成功の大きな要因は規制緩和だ。日本は、規制緩和がまだまだなされていない。ベンチャー企業も、資金の調達の規模が小さいうえに、規制の壁に阻まれている。AIの進化はすごい。芸術、哲学の分野まで進んでおり、禅の公案までAIが答えうるような時代になっている。

-久米邦武は、西洋の民は欲深き民であり、国も人々を富ませることを第一に考えているが、東洋には王道という考えがある、ただ、今は、国を富ませることを考えざるを得ないと述べている。今日の議論は、基本的に西洋の資本主義、民主主義が機能不全に至っているというものであり、我々は、今後どうすればよいか、色々考えさせられた。人生の各段階に応じて、働く、学ぶ、楽しむの3つの要素を使い分けるという考え方も興味深く聞いた。波頭氏と磯田氏のYouTubeも面白く見た。江戸時代は停滞もあったが、その中で、「まつ(服)ろわぬ人」、すなわち、世の中の流れに従わない人々が生まれたこと、これこそ文化の基本であるという指摘も面白かった。さらに、日本人は、いったん出来た体制をなかなか変えられない、黒船や戦後のGHQなどの外圧がないと、抜本的な改革は出来なかった、今後、ありうるとすると、南海トラフの大地震かもと、磯田氏は言っていた。確かに変えることは難しいかもしれないが、変えられるとすると、教育ではないかと考える。波頭氏と伊藤穰一氏とのYouTubeも面白かった。伊藤穰一氏は、自分は自閉症だと告白し、ノーベル賞の学者の多くは自閉症で、特殊な才能を持った人を認めて、一律的な教育を改めるべきと主張しているが、その通りだと考える。それぞれの才能を活かして、楽しく学べるような教育を行うことで、災害ではなくて、教育で日本を変えたいと思う。AIについて、伊藤穰一氏は、これからはWeb3の時代だと言っている。ブロックチェーンを使った自立型の仕組みで、これからはバンクレス、さらには、ステートレス、すなわち、銀行も国家もいらない形になると言っている。

-分断された世界で、70億人以上の人々がいかに平和に暮らしていけるようにするのか、国連の改革以前に、それぞれの国が幸福に暮らせるにはどうすべきか考えるべき課題だ。

-今後、どうすべきか考えるとき、大事なことは、2つだ。先ず、やり方を変えること。今までは、PDCAでやって来たが、今後は、先が見えない混沌とした時代と言われており、その場合は、OODA(observe、orient 、decide 、action)が大事と言われている。2つ目は、社会を変えるトリガーを見つけることだ。今の時代では、ITが大きな変化をもたらすものになっている。学びについても、zoom、YouTube、Googleを使えるかどうかで、全く異なる。途上国の人々もITでは、電話線を敷かずに、携帯電話で繋がることが出来る。

-色々の論点が出されているが、こうした問題を5年先で考えるか、30年先で考えるか、また、日本だけで考えてもダメで、他の国のことも考えないといけないので、なかなか難しいというのが、実感だ。

-今日の議論で、何人かが、国の視点だけではなく、コミュニティーの視点で考えるべきといわれたことが、印象的だった。

-今日は色々の論点が出て、活発な議論があってよかった。それぞれの論点について、さらに熟議が行われることを期待したい。

(文責 塚本 弘)

GJ研究会 – 令和日本のヴィジョン:「技術革新」

日時: 2022年6月22日(水)10時から12時30分
場所: zoom
参加者:10人
テーマ:技術革新

議事要旨
2人から報告があり、その後、議論を行った。

(小泉)
今は、劇的変革の時代。特にAI革命が重要。イスラエルの歴史学者ハラリ氏は、人類が直面する3つの課題として、世界的な戦争、環境破壊、それに破壊的な技術革新をあげており、特に、3番目の技術革新が最も複雑としている。AIと先端技術の進歩は、20~40年の間に我々の暮らしを大きく変えるとしている。ロボットが人に代わり、雇用市場は劇的に変わる。中国に見られるように、監視社会が出現する。AI革命の基本は、
(1)コンピュータ処理機能の劇的向上
(2)巨大なビッグデータの蓄積と解析
(3)ディープラーニングの劇的進化の3つだ。
2045年には、AIが人類の知能を超えるシンギュラリティ(技術的特異点)に到達するという予測もある。これに対し、AIの負の部分に注目し、警戒する議論をホーキンス、ビルゲイツ、イーロンマスクなども述べている。米国のGAFAMの時価総額は日本のGDPの約2倍、その新技術への投資額は2021年1340億ドルと日本全体の研究開発費を上回っている。
こうした状況の中で、日本はどうすべきか。「シン・ニホン」の著者安宅和人氏は、第二の黒船ともいうべきAI革命を「出口産業」(幅広い大きな既存産業の存在、生産性に巨大な伸びしろがある)を多く有するが故に勝てるチャンスがあるという。すなわち、あらゆる業界、組織がAI -ready化すれば、勝てるとする。AI -ready化とは、AI人材を活用し、あらゆる業界でAIの作り込みを行い、データの利活用を容易に利用できる環境を作ることだとする。安宅氏は、「この国は妄想力では負けない」、すなわち、ドラえもんや攻殻機動隊を見て育った子供達は大きな発想力を持っている。
安宅氏は「日本が勝つための4つの提言」として、
(1)すべてをご破算にして明るくやり直す
(2)圧倒的なスピードで追いつき一気に変える
(3)若い人を信じ、託し、応援する
(4)不揃いな木を組み、強いものを作ると述べている。
日本は常にゼロベースでイノベーションを行ってきた。伊勢神宮の式年遷宮はその象徴、明治維新もすべてをご破算にして近代化を徹底的に求めた、戦後のTQCへの取り組みで効率的生産システムを確立した、ソニーの若きリーダー井深、盛田両氏も30代、20代で活躍。さらに、安宅氏は、残すに値する未来を作ろうということで、「風の谷プロジェクト」を提唱している。テクノロジーを使い尽くして、自然を生かした、暮らしやすい環境を作ろうというものだ。「さあ、行動だ。」

(泉)
安宅氏は日本は巨大情報革命に遅れをとったが、この国はもう一度立ち上がれるとしており、特に、若い世代に期待している。明治時代も我が国はすっかり遅れをとっていたが、岩倉使節団をはじめ、明治創業世代が各分野でキャッチアップに取り組んだ。小栗上総介は1860年新見使節団に参加して造船所の必要性を痛感し、フランス政府の支援を請うて横浜造船所を遂行し、明治政府に譲渡した。肥田為良は、幕臣時代、横浜造船所にかかわり、岩倉使節団に参加し、帰国後、蒸気機関、造船、鉄道など各界で活躍、産業革命の先導者となった。寺島宗則は島津斉彬公の下での経験もあり、横浜知事時代に東京と横浜の電信の架設を敢然と決行し、また、海底電線の敷設にも関わり、長崎と上海やウラジオストックをつなげ、ロンドン、ニューヨークへの電信を可能にした。伊藤と山尾は工部大学校の設立を目論み、ダイヤーをはじめ8人の教師を招き学生の養成に努めた。初期の学生から、田辺朔郎(土木:琵琶湖疎水、水力発電所等)、辰野金吾(建築:日銀等)、曾禰達三(建築:一丁ロンドン等)

大井才太郎(電気工学、電信)、高峰譲吉(薬学:タカジアスターゼ、アドレナリン)などが輩出した。小野博正氏の調査によれば、お雇い外国人は明治8、9年にピークに達し、予算は2900万円に及び624名に達した。安宅氏の関わっておられる「風の谷プロジェクト」は、都市集中の中で、衰退しがちな地方を、テクノロジーの力を使い尽くして住みやすい場所にしようという試みである。こうした形で、自然とともに人間らしい生き方を求めて行くのが望ましいと考える。

その後、皆さんから次のような議論があった。

-ソニーの出井さんは、「デジタル ドリーム キッド」というコンセプトを打ち出して、ソフトウェア化を進めた。その後、銀行や保険分野にまで進出し、さらに吉田憲一郎社長はプレイステーションをヒットさせ、今やメタバースの世界に入っている。売り上げの2割ぐらいがハードウェアだ。

-日本がもう一度立ち上がるにはどうすべきか。科学技術予算もダメ、才能を巡る争奪戦もダメ。これからは、老人の社会保障を削ってでも、若い人たちに投資する国になるべきとの安宅氏の警告を重く受け止めた。これを実行できるかどうかだ。

-AIが人間の仕事を奪うと考えると気が重くなる。人材の育成が大事だが、これからは、「気をつけ前に習え」を止めるべき。減点主義の教育もダメだ。ピアノで、自分はドビュッシー以外は弾けないという子供が、慶応の湘南からヤフーに入った。不揃いな才能を大事にすることが大事だ。子供は、「風の谷のナウシカ」の深い意味もちゃんと理解している。

-小泉さんの議論、とても勉強になった。国会議員にもこうしたことを知ってもらいたい。ただ、日本全体がAIに向かうことには疑問がある。大田区には1万ぐらいあった工場が今や1000ぐらい。モノづくりの部分も大事にすべき。

-アメリカにいる娘が記者を辞めて、ビッグデータを使ったスタートアップの会社に勤めており、AI化の流れを感じている。

-3点を指摘したい。先ず、日本に出口産業があること。実際、農業などはAIとドローンを駆使することで、今後大きな可能性がある。地方の交通もオンデマンドと自動走行の組み合わせで、20年ぐらい先は大きな変化が起こるだろう。二つ目は、日本の大企業のポテンシャルだ。相当多くの資金があるにもかかわらず、新規投資が不十分。これは、中間管理層が失敗を恐れて過剰な規制をするからだ。トップがこれを改めれば、相当なイノベーションができる。三番目は、若者のベンチャー指向をどう進めるかだ。官民あげて、新しい仕組みを考える必要がある。先日、前豊岡市長の話を聞いた。コウノトリを通じた環境整備、劇場を中心にした街作りなど、とても前向きな行政をされたと感銘を受けた。

-出口産業の強みを生かすべきとの指摘はそのとおりだ。ダボス会議の発表では、日本は観光競争力でNO1だ。日本の自然の美しさは大きな力だ。また、日本の生活保護費は大きなウエイトを占めているが、これをもっと若者の未来のために使うべきだと思うが、なかなか容易ではない。

-北岡先生は、我々への講演で、明治の先達は、最重要課題をはっきりさせて、それに一心に取り組んだと言われた。今、最重要課題というと、ウクライナ問題をいかに早くやめさせるか、と格差の問題ではなかろうか。AIが人間に取って代わるとなると、ベーシックインカムの問題も考えなければならないかもしれない。

(文責 塚本 弘)

GJ研究会 – 令和日本のヴィジョン:「外交問題」

日時 2022年5月27日(金)10時から13時
場所 zoom
参加者 19人
テーマ 外交問題
議事要旨
3人から報告があり、その後議論を行った。

(佐野)
先ず、本日の報告は、個人としての見解であり、自分の属した組織の意見ではないことをお断りしておく。第一次世界大戦後のベルサイユ講和会議に参加した日本代表団(西園寺公望、牧野伸顕全権)は、発言が少なく、日本は、サイレンス パートナーと呼ばれた。ただ、実質的には、相当の成果を得ており、必ずしも失敗した訳ではない。外交では、「沈黙は金」は通用しない。今では、国益のため、どんどん積極的に発言することが奨励されている。これまでの国際社会と日本外交の変遷を振り返ると、基本的には、日米安保を核として、軽武装、経済重視でやって来た。独自外交の萌芽は、先ず、石油ショックのときだ。アラブ諸国への外交の重要性を村田良平氏(当時中近東アフリカ局長)らが主導した。第二の転機は、湾岸戦争だ。その後、日本が経済大国となり、90年代には、日米グローバルパートナーシップを打ち出すが、この頃から、バブルが崩壊し、国力低下が始まった。現在は、「大国間競争の時代」だ。特に、台頭する中国とどう付き合うか。アメリカの政治学者グレアム アリソンは、その著書「Destined for war 」で、覇権国家と新興国が戦争を回避するのは容易ではない(ツキデイデスの罠)と述べている。過去の16の事例のうち、回避は4件のみ。習近平は、2021年の歴史決議で、「中華民族の偉大なる復興」を目指している。「2つの百年」のうち、中国共産党創設100年の2021年には「小康社会」を達成し、中共建国100年の2049年には、「社会主義現代化強国」の実現を目指している。核心的利益として、香港、台湾、ウィグル、チベット、南シナ海、東シナ海を位置付けている。南シナ海の中国の領有権を認めずとする国際仲裁裁判所の判決を否定し、紙屑と称している。西側は、中国が発展すれば、民主化、人権尊重の方向に向かうと「読み違い」をした。オバマ政権末期から、方向を改め、知財、技術移転の強制、国営企業への過剰補助金などを問題とし、高関税、輸出管理などを行っており、経済安全保障(エコノミックステイトクラフト、サプライチェーン、革新技術、民間技術の軍事転用の防止、宇宙・サイバー・電磁波)を徹底している。さらに、台湾関係法による武器の供与、要路・議員の訪問も進めている。

ウクライナ侵攻により、顕在化した東アジアの危機にどう対処するか。ウクライナの抑止の失敗から何を学ぶか。残念ながら、アメリカが(第三次世界大戦を避けるため)ウクライナに出ないと言ったことや、クリミヤ侵攻への制裁が微温的であったことなどが、ウクライナ侵攻の誘因の一つであった可能性はある。アジア太平洋における西側の安全保障は、今回のバイデン大統領訪日の際開催されたクワッドや、米英豪による安全保障協定AUKUSにより、強化されつつある。

最後に核抑止の重要性と「核兵器禁止条約」について、触れたい。先ず、唯一の被爆国として、核兵器が使われることのない世界にしなければならないことは、当然である。それなら、「核兵器禁止条約」に賛成してもいいのではないかという意見があるかもしれないが、「核兵器禁止条約」は、「核抑止」を禁止するものであるので、現在核兵器を保有する国や核の傘にいる国は、加盟していない。日本もこれに加盟すると、アメリカによる核の傘を否定することになるので、加盟していない。また、核兵器の不拡散に関する条約(NPT条約)の再検討会議(5年に一度で、2020年の予定だったが、コロナのため、延期)が今年8月に開かれる予定であり、世界の核不拡散が進むよう、日本も貢献すべきである。日本が、核武装をすべきではないかという意見もあるが、自分は反対である。核兵器を保有しているのは、安保常任理事国5カ国の他、インド、パキスタン、さらに疑わしいのが、イスラエル、北朝鮮、イランなどだが、もし、日本が保有するとなると、ポテンシャルのある国がどんどん保有する可能性があり、「核のカオス」を招くおそれがある。国内政治でも、例えば、どこの基地に核兵器を置くかということになると、地元で大変な騒ぎになるだろう。艦船に搭載するとしても、寄港地をどこにするかが大問題になるだろう。ということで、日本の核保有は論外だ。米ソの間では、核兵器削減交渉が進んだが、今後、米中の間で核軍備管理交渉が進むことが望ましい。こうした交渉を通じ、核兵器を削減するとともに、両国間の信頼醸成を高めることが必須である。

(井出)
外交を論ずる前に、現代経済社会の課題を考えたい。ベルリンの壁崩壊後、市場経済システムが広く行き渡るとの楽観論が広がったが、実際はリーマンショックが発生し、ピケティの指摘するように格差が拡大し、地球環境問題が深刻化し、コロナが拡がり、さらには、ウクライナ問題で国連を中心とした安全保障システムの不備も明らかになった。
成長至上主義に対し、「沈黙の春」、ローマクラブによる「成長の限界」などが出され、1992年のリオでの国連環境開発会議を行われ、2030年を目指した国連SDGsも打出されている。大事なことは、こうしたことをいかに実行するかだ。ICTやAIも進展しているが、これらの技術を使いこなし、負の側面を除去しつつ、市場経済システムの永続性をいかに高めるかの知恵が試される。

世界は、米国一極から、米中2強体制に移行している。こうした中で、中国をどうとらえるか、どう共存するか、考えたい。日本の対中好感度は10%を割っているが、中国を排除するのではなく、例えば、習近平氏がいう「人類運命共同体」というのは、具体的に何を目指しており、言っていることと、実際にやっていることとが違うのではないかなど、首脳レベルでの対話が望ましい。これまでの歴史を振り返ると、朝河貫一の「日本の禍機」の警告の意味を理解せず、孫文は、「日本は欧米帝国主義の走狗となるのか、アジアの王道を開く先駆者となるのか」と述べ、日本を去った。これまで日中友好の井戸を掘った数々の人々を回顧しつつ、日中間で、環境や格差是正、SDGsなどについて、協力が進むことを期待したい。古代において、孔子は、「楚の共王が弓を忘れ、家来がこれを探そうと進言した時、楚の人が忘れ楚の人がこれを使う。探す必要はない」と言ったことを聴き、「共王は度量が狭い、何故楚に限るのか、人弓を忘れ、人これを使うと言わないのか」と評し、国を越えた人間に及ぶ思想を述べた。宮沢賢治は、「世界全体が幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」と言った。今、日本社会は第三の開国に直面している。夏目漱石は明治社会の脆弱性を強く懸念し、「日本は滅びるね」と広田先生に言わせている。1999年ダボス会議に参加した際、香港の実業家から、バブル崩壊後の日本の対応、無策を批判する一方、明治維新を断行した日本を忘れてはいけないとの発言があった。岸田総理の新しい資本主義、内容と実効性がよく分からない。最後に、歴史家E・H・カーは、「歴史とは、過去と現在の絶え間ない対話である」と述べているが、これに加え、「歴史とは、過去と現在の対話であり、また、未来への展望である」と考える。

(泉)
明治創業世代の外交、軍事について述べたい。徳川時代に、薩英戦争、下関戦争を経験し、薩摩、長州は西欧列強の軍事力の強さを実感した。明治に入り、キリスト教徒の弾圧に対し、各国から、厳しい抗議もあった。通貨についても、偽札の流通などで、大隈重信を中心に対応に苦慮した。大村益次郎の示唆もあり、明治2年に山縣有朋と西郷従道は約1年間欧州の軍制視察をした。このように、岩倉使節団以前にも外交と軍事を巡る様々な動きがあった。岩倉使節団では、米国の歓迎ぶりに気を良くして、当初は予備交渉のつもりだったが、条約交渉に臨んで、大失敗をした。しかし、これも外交交渉の難しさを知る良い経験だった。英国では、当時の最新技術を隈なく視察した。フランスでは、モン・ヴァレリアンの要塞やヴァンセーヌ城を訪問し、武器庫では、普仏戦争に中立を宣言していた米国の武器があるのを見つけた。久米は「西洋各国の交際礼は、陽に親睦を表するも、陰は常に權危相猜す、いったん不虞あるに臨めば、局外中立の義を立てるも、またただ陽面のみ」とし、クリミアのセバストーポリの戦いにも言及し、「英仏合従するというも、実は仏その中におり、陽は英に結び、陰はロシアを援けたり」と述べている。デンマーク、オランダなどの小国は、ハリネズミのように毛を逆立てて国を守るしかないとしている。ドイツではビスマルクに会い、「各国は親睦礼儀をもって交わっているように見えるが、それはまったく表面上のことで、内面では強弱相凌ぎ、大小侮るというのが実情であり、万国公法も大国は利のあるうちはこれを守るが、いったん不利となれば、武力を行使する」と言われ、国際社会では、法律のみを信じるわけにはいかず、軍事力あってこその万国公法であると痛感する。帰国の際には、各国の植民地支配の実情を知る。カルカッタでは、船にアヘンが積み込まれ、英国がその利益を得ていることに「あに文明の本意ならんや」と憤慨している。岩倉使節団の旅は、高坂正堯氏の言う通り、大合宿研修旅行であった。ニューヨークタイムズは「この使節団は日本の支配階級が自ら西洋文明を学ぼうとするものであり、日本において最も優れた能力と影響力をもつ人々である」と報じ、ロンドンタイムズは「先進諸国によって享受されている、最高の文明の果実を手に入れようと目論んでいる」とし、フランスの絵入り新聞イリュストラシオンは「この使節団の派遣は一連の日本の改革の前奏曲といえるだろう」としている。確かに、使節団は現場を見て、要人たちに会った。兵器工場では、その立派さに驚き、褒めたところ「人の血を流す凶器に過ぎず、何で文明世界にあるべきものと言えようか、自分はこれを恥じる」との答えが返ってきた。久米は、「世界の真形を暸知し、的実に深察すべし」と述べ、上っ面だけでなく、本当の姿を見て、的確に、しかも、深く理解することの重要さを説いている。

その後、皆さんから、次のような議論があった。

-クラウゼヴィッツと孫子の話があったが、ヨーロッパは絶対主義、東洋は相対主義。宗教戦争等が起きるのは、相対主義的な考え方がないからだ。近代の西洋優位主義は行き詰まっているのではないか。これからの時代は、東洋の思想が重要だと考える。兵馬俑を見たクリントン大統領は、アメリカの歴史は中国の一王朝にも及ばないと語った。

-本件、どちらが善、どちらが悪との二者択一の問題ではない。別の機会に議論したい。

-クラウゼヴィッツについて、評価する人が多いが、リデルハートは、それほど認めていない。

-米中関係については、突然中国との国交回復を打ち出したニクソンショックのようなこともあった。習近平とバイデン、今後どうやって行くのか。アメリカの銃の野放しも問題だ。

-習近平は、異質な指導者ではないか。

-中国との対話の必要性は同感だが、強くなるにつれて目線を上げているので、どんどん対話が難しくなっている。しかし、こちらがへり下ると、逆効果だ。

-昔の政治家は古典を読んでいた。例えば、孟子は「民をもって貴(とおと)しと為し、社稷は之に次ぎ、君を軽しと為す」と述べていると、中国共産党にこうした古典を用いるといいかも。

-日本人は良識を持つが、今の中国共産党は孔子、孟子もプロパガンダに使っている。

-日本の教育でも、もっとリベラルアーツに力を入れるべきだ。ダボス会議の話があったが、英語での発信ができる人がもっと出てほしい。軍縮で、中満泉さんが活躍しているが、国際機関で働く人も増えてほしい。

-中国の核兵器の抑制をすべきだ。

-バイデン大統領は、今後、戦術核も対象にした核削減と中国も入った核削減交渉の2点を重視すると述べている。今後、サイバーや宇宙空間の平和利用も重要。

-台湾有事を危惧している。また、日本が核兵器禁止条約に入らないのは、おかしい。

-バイデン大統領は何回も台湾有事の際は武力で介入と言っている。そのつど、後で、否定はされているが、あれだけ何回も言えば、本当にそう考えていると受け止められるだろう。核兵器禁止条約には、86ヵ国が署名し、61ヵ国が批准(2022年5月17日時点)しているが、日本は、核抑止を否定し、日米安保と相容れないので、この条約には加盟していない。

-核の相互確証破壊の理論があるが、例えば、東京がやられてしまった場合、本当にアメリカが報復してくれるのかという問題や、イスラエル、インド、パキスタンなどに拡散した核について、抑止力がどの程度効くのかという問題もある。キッシンジャーやシュルツなどは、核のない世界の提言をしている。

-賢人による提言はいくつも出ている。世界には13000発ぐらいの核があり、これを削減することが大事だ。

-実際にどう抑止するかを考えるとなかなか難しい。例えば、北朝鮮を考えると、どんなときに核を使うかというと、体制が壊れるときに、使用される可能性が高い。テロリストの抑止力が効かないのと同じだ。これを防ぐのは、外交しかない。軍備管理交渉も重要だ。その際には、相手方がやりたがっているところから攻めるのがよい。

-今のウクライナについても、ロシアの立場に立って考えることも大事だ。NATOがどんどん拡大して、押し込まれたような中で、起こった面がある。

-ロシアの世論調査では、ソ連の崩壊について、6割の国民が残念と思っている。52%の国民がソ連の復活を望んでいる。政治家は、こうした国民感情をある程度踏まえて対応せざるを得ない面がある。

-NATOの拡大が、ロシアにとって、嬉しくないのは分かるが、それぞれの国民が決める問題でもある。

-中国との付き合いだが、警察と軍の他に国内治安対応の武装警察がおり、ロシアにも軍、警察以外に国内治安対応の内務省軍(国家親衛軍)がいる。こうした権威主義国家とどう付き合うかの覚悟が必要。外交、抑止力、経済を重層的に展開していくことが大事だ。中国と日本の関係については、色々の意見が出たが、敵対的ではなく、共存で行くべきで、抑止のみならず、外交の梃子も効かすべきだ。今の中国が話を聞くように、どううまくやるのか、米国との関係を含めての課題と認識した。

-今、日本は有事の玄関口にいるかもしれない。ウクライナへの侵攻を機に日本の戦力増強、中国への対応などについて、タブーなき議論が進むことを期待したい。

-岩倉使節団の人々が今の世界を見たら、どう考えるか。科学技術、情報なども含め、日本のあり方を考えていきたい。

(文責 塚本 弘)

 

GJ研究会 – 令和日本のヴィジョン:「日本文化」

日時:2022年4月22日(金) 午前10時から12時30分
場所:zoom
参加者:11人
テーマ:日本文化

議事要旨
3人から報告があり、その後議論を行った。

(小野)
3つの点を指摘したい。
(1) 文化には優劣がない。以前は、ヨーロッパが優れているという社会進化論もあったが、今は、フランツ ボアズが提唱した文化相対主義が認められている。
(2) 多様性の尊重が大事。アイヌや沖縄の文化は虐げられてきた(アイヌ、沖縄の哀しみ)。黒人文化も押し殺されてきた。南アのカフィール族の部族会議では、満場一致になるまで議論が続けられ、首長に向かって遠慮なく厳しい批判が飛び交い、首長は聞き役に徹する。少数意見が多数意見に押しつぶされることはなかった。後の大統領のマンデラはカフィール族の出身。鳥のシジュウカラにも精神文化があるという京大の研究もある。
(3) 多田富雄氏によると、日本文化の特徴は、4つ。(ア)自然崇拝と自然信仰のアニミズム文化(イ)豊かな象徴力。俳句、和歌など。(ウ)あわれの美学(エ)それらすべてを包み込む「匠の技」。その中で、「道の文化」と「気の文化」が育まれてきた。日本文化の特質は、優れたものを取り入れて日本化することだ。(漢字からひらがな、律令から17条の憲法、明治でも近代文明を取り入れ、殖産興業、立憲政体)。西欧でも当初は、中国に魅かれてシノワズリ(中国趣味)が流行したが、その後ジャポニズムが拡がり、絵画などに大きな影響を与えた。最近では、クールジャパンとして、アニメなどが海外でもてはやされている。日本の権力構造は、権威と権力が分離し、中空構造になっていることで安定性が保たれた。これからは、日本の和の文明(憲法第9条)を世界に広げることが重要だ。江戸時代の浪速の知の巨人木村蒹葭堂(造酒家)は、文人画家、本草学者、煎茶、篆刻、国学、医学、オランダ語、ラテン語などを修め、多くの知識人と交流。フランスでは、国家が文化を尊重している。2020年2月に亡くなったジャーナリスト ジャン ダニエルに対し、マクロン大統領は、「反対者と対話し、自分と見解の違う者にインクと紙を与え、イスラエルを批判、アルジェリアの独立を支持し、良心の人、真の人生を生き、知的・道徳的羅針盤となった」と18分に及ぶ追悼文を捧げた。

(栗明)
日本文化のキーワードは、「万葉集」「神道は祭典の古俗」「万機公論に決すべし」の3つだ。万葉集の4500首の中で、一番好きな歌は、志貴皇子の「石激垂見之上乃左和良妣乃毛要出春爾」だ。「石走る 垂水の上の さわらびの 萌え出ずる春に なりにけるかも」。ところで、大正時代に刊行された「全国神職会会報」(全52巻)を某出版社が近年復刻したところ、一番最初の注文主は米国の議会図書館だった。出版社は驚いたそうだが、別に不思議ではない。外国人にとって、最も理解しにくいのが、神道だ。教祖や経典がないからだ。日本人の特性は、あらゆる自然に畏敬の念(神性)を抱く点だ。朝日新聞に28年間連載された「折々の歌」(大岡信)は、外国人から、数百万人の詩人の国だと、驚異を持って見られている。外国人と日本人の違いを挙げると、ラフカデイオ・ハーンは松江の人が朝日に柏手を打って拝んでいるのに驚いた。天才数学者の岡潔は外国人に俳句を教えようとしたが、「鎌倉に鳩が三羽おりました」という句に呆れた。虫の音は、日本人には安らぎだが、外国人には騒音。これまで、外国からのいくつかの衝撃があった。大陸文化からの衝撃には、「和魂漢才」として、漢字には仮名、仏教の伝来には、神仏習合で対応し、白村江の敗北には、律令制を導入し、国家体制を整備した。ただし、宦官や纏足は取り入れなかった。黒船来航には、「和魂洋才」で、先進の知識・技術を導入し、西欧概念を翻訳した。日本には、客観的・合理的思考の伝統があり、例えば、日本書紀には異説が列記(イザナギ イザナミについては11の説が記載)されており、江戸時代には和算が発展し、ノーベル賞、フィールズ賞の受賞者が多いのも、こうした伝統に負っている。日本文化は、「選択的柔軟な受容、変容させつつ受容」を行ってきた。唯一絶対神は日本人の基本的心性になじまずと拒否した。「万機公論に決すべし」ということで、和をもって尊しということで、独断を忌避し、八百万の神の話し合いの精神でやってきた。日本にプーチンはいない。織田信長は例外中の例外。
今後の日本は、受難が続くのではないか。IT革命の真只中で西洋の強さが目立つ。キリスト教のバックボーンを踏まえて、強いリーダーシップの下、迅速、効率的な判断。日本の弱さはバックボーンなきままで、異者との競争に臨まなければならない点だ。日本の強みは、継続-断絶のなさ、異者との話し合い、相違を折衷し融合していく文化。こういう考えは一神教には受け容れにくい。日本の復活がなるか、時間が必要。最後に、異者と遭遇してのわが短歌を紹介したい。

拒むごと我を圧する摩天楼幾たびか来て今日の違和感
冬の陽をきららに返す銀(しろがね)のハドソン見つつニュースを拾う
あとひと日あれよと祈る花の日を終日たたく春の嵐は

(泉)
現在では、文明と文化の二分論が常だが、福沢諭吉は、「文明とは、衣食を豊かにし、心を高尚にするものなり」とし、西郷隆盛は「文明とは道の普く行われるを讃称せる言にして、客室の荘厳、衣服の美麗、外観の浮華をいうにはあらず」としており、両者とも文明の精神性を重視している。久米邦武の文明観は、「麗都」パリに「文明都雅の尖端」を観じ、「まるで天国のようだ」と感嘆し、美しい景観、喫茶飲酒割烹店、いたるところにあり、「生きる愉悦」を感得する。伊藤博文は、大隈重信が企画編集した「開国五十年史」で、文明観を述べている。すなわち、西洋文明の外形的な繁華に驚きながらも、「和魂」の保守を考究し、そのコアを新渡戸稲造の「武士道」に見出して、それが庶民にまで浸透した江戸時代の教育に感じ入り、「仁、義、礼」などの「徳目」を軸とした日本文明を目指すべきという。

最近の議論をいくつか紹介したい。波頭亮氏は「日本経済はすでに成熟フェイズにあり、これから目指すべきは、文化、芸術、文芸、芸術、遊び、交流にある、AIも使いこなした理想郷を作りたい」とする。原研哉氏は「爛熟経済の後は、日本人伝来の「繊細、丁寧、緻密、簡潔」の美意識を貴重な文化資源としてフルに活用し、日本をデザイン、「誇りと充足の道」を目指すべき」と唱道する。野中郁次郎氏は、「美徳、賢慮、美学観に基づき「今や量の時代はピークを過ぎ、質の時代に入った。これからは、何が善いかか、何が美しいかを追求すべき、企業も国も「美徳」の経営を目指すべきである」と首唱する。

自分は、「適欲循環スマート文明」を訴えたい。地球、国家、個人が曼荼羅のように織りなしあって、貪欲収奪過剰文明から、適欲循環スマート文明を目指すべきと主張したい。2016年のシンポジウムでも紹介した「美味し国 ニッポン列島」のビジョンを再度披露してプレゼンを終える。「大国でも小国でもなく、中位、中道、中和の国として、平和を希求し世界のハーモナイザーに徹しようではないか そんな地球時代のモデルになるようなオンリーワンの「美味し国を目指してはどうか 夢と目標さえ持てば、日本人は凄い力を発揮する幕末も戦後も日本人は大革新を遂げたではないか 明治創業の精神を甦らせて「新しい日本像」を創り出そうではないか」(一部抜粋)

(塚本)
日本文化の優れた受容能力についての発言があったが、ハーバード大学では、「経済複雑性指標」を分析しており、それでは、日本は第一位。以下、スイス、韓国、ドイツ、シンガポール。こうした日本の良さに自信を持って、未来を語ることも重要だ。

その後、皆さんから次のような議論があった。
-日本文化への外国からの影響として、東北大学田中英道名誉教授のユダヤ人の日本への伝来について注目している。

-埴輪の形からもユダヤ人の影響を受けたとする説もある。ただ、日本書紀と旧約聖書には絶対的な違いがある。日本書紀は天地から神が生まれたとするが、旧約聖書は、初めに神ありきとする。

-順天堂大学があるが、日本の考えは、西洋のように、征天ではなく、順天。日本人のものの考え方は「草木国土悉皆成仏」。人間中心ではなく、自利と他利の調和を説く思想を梅原猛は「人類哲学序説」で説いた。

-東洋の精神文化と西洋の科学技術文明を融合させることができた日本こそ、世界に向けて、このような考え方をアピールすべきだ。

-漢字のひらかな読みの話があったが、元々日本語としての言葉はあった。

-サミュエル ハンチントンの「文明の衝突」では、日本に独自の文化はあったとしているが、孤立した箱庭文明としている。しかし、今後、重要なことは、閉鎖的ではなく、世界にどう発信するかだ。それには、英語で発信することが大事。大岡信や谷川俊太郎は詩で大賞をもらったし、「ドライブ マイ カー」もアカデミー国際長編映画賞を獲った。世界で発信できる若い人を育てることが大事だ。

-西洋人にも色々いて、オールコックなどは、相対的文明史観に立ち、江戸文化を評価していた。混浴なども一つの文化として認めていた。シュリーマンも清潔で美しい国と高く評価している。アイヌとどう向き合うかという点で、北海道の名づけ親の松浦武四郎は、アイヌの人々の一人一人の名前をちゃんと覚えたそうだ。明治になり、政府のやり方に失望して、引退したようだ。

-島国で、災害も多い日本は、自然を克服しえないことをよく分かっている。また、量から質への転換の必要性は、日本企業はよく分かっている。バブルの崩壊後、多品種少量生産でやって来た。多くの企業は、経済複雑性にチャレンジしてきた。ユニクロの機能性繊維などはその一例。今後の課題は、デジタル化、IT化が進む中で、プラットフォームの上で、どう日本文化を作り上げていくことではなかろうか。

-日本の文明をどう世界に向けて発信していくかは難しい。世界宗教会議もあるが、日本の代表は仏教が中心。鈴木大拙のような人物が現れない。これから世界にアピールできる人物をどう育てるか?

-今や英語は世界語。残念なことに、以前は海外に憧れる若者が多かったが、今は留学生が減っている。それでもまだGDPは世界第3位。どう若者を世界に向かわせるかが大事だ。

-先日茂木健一郎氏と会った。「ikigai 」という英語の本を出版するようだ。日本の詩歌を理解しているピーターマクミラン氏の話も聞いてみたい。先月、財政の問題を議論したが、先日財務省の矢野次官の話を聞いた。節度のない支出を批判し、政治家が惰性で仕事をしていると外国に買い取られると述べておられた。

(文責 塚本 弘)

GJ研究会 – 令和日本のヴィジョン:「財政問題」

日時  2022年3月25日(金)10時から12時30分
場所  zoom
出席者 11人
テーマ 財政問題

まず2人から報告があり、その後議論を行った。
(森本)日本の現在の財政は明治維新期に匹敵するほど悪化しているが、明治新政府が次々手を打ちこれを乗り切ったことに私共も学びたい。

昨年の文芸春秋11月号の「財務次官もの申すーこのままでは国家財政は破綻する」では、矢野財務次官が日本の長期債務が今1、166兆円でGDPの2.2倍になっていることに警鐘を鳴らし、不都合な真実を直視し先送りすることなく最も賢明な対応を訴えた。これに対し浜田宏一氏などMMT論者から日本は十分な資産を有し、家計と違い国は通貨を発行できるから借金はまだまだしても大丈夫という意見がある。国をリードする経済人としてこれに同調する高市政調会長共々いささか無責任な感じがしないでもない。

次に伊藤元重氏はアベノミクスの成果と限界について、2012年から2019年までGDPは494兆円から552兆円に増え、失業率も減り、株価も上がりそれなりの成果を上げたが国民に経済回復の実感はなかったという。それはその間の成長率が低かったことと、民間サイドの生産性の低さによるものと思われる。更に巨額の財政債務も残ったままであり二つの懸念がある。一つはどこかで財政破綻をする恐れがあること、もう一つは将来世代への負担の増加だ。弁護士の明石順平氏はアベノミクスでは実質賃金は下がっており、円の力も低下したとし、今後の社会保障費増大に備え、「国破れて山河在り」とならぬためにも国民に真実を知らせて増税を覚悟してもらうべしとする。

日本をどう再構築するかについて、小林慶一郎氏は国は「知らしむべからず」、国民は「知らぬが仏」と決め込まず、今後ますます増える社会保障費の見通しを明らかにし、消費税を中心に増税によって対応するとともに、2,000兆円の金融資産をうまく活用するなど国が責任をもって対応しなければならないと述べている。一方これに対し増税で日本経済は壊滅すると主張する財務省出身の高橋洋一氏のような人もいる。

以上財政問題についての主要な議論だが、自分はこのままでは国家財政は破綻するという矢野財務次官の危機意識に共感し、地道に財政健全化の道を歩むべきと考える。

(塚本)明治初期、政府は三つの構造的な財政問題に直面していた。人口の6%の武士層に対する秩禄支給が歳出の3~4割を占めていたこと。旧幕藩体制からの幕府や諸大名の膨大な債務を抱えていたこと。米穀などの現物中心の租税のため、歳入が米価によって大きく変動したこと。これらの課題を大蔵卿の大隈重信は、井上馨、渋沢栄一、などを登用し、次々に改革し、1875(明治5年)ごろにプライマリーバランスを回復させた。さらに、大量の悪金(贋金)への外国からのクレームについても、大隈はパークスとの旧知の関係を踏まえ、適切に対応した。日本の財政は、歳出では、社会保障費が1990年の17.5%から2021年には37.3%になっていること。OECDの国民負担率の各国比較では日本は平均よりも低いこと。国と地方を合わせた公債等残高の対GDP比は、2004年の130.2%から、2021年には211%に増えており、欧州のギリシア(205%)、イタリア(155%)、スペイン(120%)より悪い。国債の利払費は、今は金利安(0.9%)のため比較的落ち着いているが、1980年代のように7%台だと大変な金額になる。EUでは政府債務の対GDP比は60%以内を加盟条件としている。歳出のメリハリも重要で、科学技術予算は1889(平成元年)に比べ約3倍、他方、公共事業費は0.83。ただし、老朽化したインフラの修復は重要。自分も冗費を削減することは大事だと考える。

その後、皆さんから次のような議論があった。
-いわゆるリフレ派が異次元の金融緩和を進めたが、経済は全然改善されておらず、成長していない。

-アベノミクスは、「金融緩和」「財政出動」「成長戦略」の三本の矢で、デフレを脱却し、名目3%の成長を目指すといわれたが、実際は金融緩和だけだった。もっと、痛いところにメスを入れる構造改革をやらないといけない。小泉改革も郵政改革などしかやっていない。世界を見ると、ウーバーが多くの国で普及しているが、日本では認められていない。農業でも農協が中心の仕組みは変わっておらず、新規参入が進んでいない。高速道路を無料化すれば、運送コストが相当下がるはずだ。アメリカやドイツでは基本無料だ。政治の利権構造にからんでいるので、こうした改革が進まないのが、大きな問題だ。

-大企業が配当をたくさん支払い、賃金を上げていないのも問題だ。

-MMTについては、インフレになったら、大変なことになること、将来世代への負担の先送りになることが問題だ。高速道路については、いきなり無税は難しくても、一律料金にする手もあるのではないか。そうすれば、輸送コストが削減できるとともに、もっと旅行に行く人も増える。

-MMTについては、若干の誤解があるので、コメントしたい。インフレになったら困るという議論があるが、MMT論者もそのときは消費税を上げて、インフレを抑えればよいと言っている。インフレというとき、物価上昇をどうとらえるかで、コア指数で見るのがよいという議論もある。もちろん、冗費を増やせなどということも言っていない。今、日本にとって大事なのは、いかにデフレから脱却し、経済の好循環を作るべきか、そのためにイノベーションをどう生み出すかである。こういう本質的な問題を行うためにも、MMTについて、もっと本格的な議論が行われるべきと考える。日本の大企業は、ある程度稼いでいるので、無茶をしなくなっている。これで十分幸せという考えだ。これを改めようというのがMMTでもあり、大いに議論すべきだ。

-日本の長期戦略を考えるのは、今までは官僚と政治家だったが、省益や既得権益にとらわれて、うまく行っていない。外圧や戦争がないと変われない国では困る。

-磯田道史氏と波頭亮氏のyoucubeを見た。この30年の日本の停滞は、江戸時代とよく似ているとの指摘に同感だ。何とかしないといけない。

-この30年を停滞ととらえる議論もあるが、よくよく考えてみると、我々の生活は随分豊かになっているのではないか。テレビだけではなく、youcubeなどもどんどん増えて、例えば、中田敦彦のyoucube大学など、実に面白く歴史を論じている。今は、とても安価に楽しい生活ができる大飽食の極みともいう時代になったともいえる。若い世代も、資産を譲り受けた人達は、あまりあくせく出世しようなどと考えていない人も増えているのではないか。他方、非正規雇用の人など、貧富の差が広がっていることは大きな懸念材料だ。

-停滞する日本という議論があったが、確かに成熟した日本ではあまり大きな経済成長はしていないが、日本企業のこの30年間の海外進出は目覚ましい。それぞれの国の発展に大きく貢献している面を忘れてはならない。

-確かに、停滞の30年といわれるが、日本企業は、円高対応、海外進出で大きな試練を受けた。構造改革でも、日本企業は、雇用を重視し、一気にやることはしなかった。不採算部門の廃止でも、従業員を他の部門に回すなどの対応をしてきたため、外国の企業に比べ、大胆な構造改革とならなかった面がある。ただ、着実に実績は出ており、例えば、知財の国際収支は、以前は、赤字だったが、今や大幅な黒字(2019年度 2兆円)になっている。日本企業の生産性が低いといわれるが、ものづくりの現場での生産性は相当改善されている。問題は、間接部門の生産性があがっていない点で、これについては、DX革命が必要だ。

-日本では、基本的に集団主義で進んで来たので、1992年にインターネット時代が始まっても、うまく対応できなかった。インターネットは、個人主義をベースにしている。

-円安、インフレがもう始まっている。そういう中で、GDPはそう大きくは成長できない。問題は既に表面化している。

(文責  塚本 弘)

GJ研究会 – 令和日本のヴィジョン:「外交、安全保障」

日時:2022年2月25日(金)10時から12時30分
場所:zoom
出席者:14人
テーマ:外交、安全保障

議事要旨
まず、3人から報告があり、その後議論を行った。

(小野)「進歩、進歩、進歩、敵、敵、敵、人は勝たねばならぬ、これじゃ、我ら人類は死に急ぎ。」(ノーテンキの唄)。あらゆる西洋的戦略論は忘れましょう。疑心暗鬼が戦争を生むので。2006年の東大の世界史問題は、主権国家と戦争に関し、「ウエストファリア条約、総力戦、国際連盟、徴兵制、十四カ条、ナショナリズム、戦争と平和の法、平和に関する布告、の言葉をすべて使って510字以内で説明しなさい」というものだった。模範解答も示されていたが、これほど難しい問題をすらすらと解答できる高校生が何千人もいるのだと、感心した。だが、一瞬後に思ったのは、まてよ!あれから16年も経つのに、世界平和に関する大論文は聞いたことがない。戦争の種は、「国家」「政治思想」「人種」「宗教」の4つだ。戦争は人類最悪の悪だ。(半藤一利)仮想敵国を作る限り、戦争は永久に終わらないし、人類の滅亡に繋がりかねない。抑止力という魔力。日米安保は再考すべき。日本には最高の憲法がある。GHQに押し付けられたという意見もあるが、自分は幣原喜重郎のイニシアテイブで行われたと考える。日本は国連改革案を出すべき。西洋文明では地球は持たない。日本は恐れずに平和外交を推進すべき。

(塚本)ロシアがウクライナに侵攻という大変なタイミング。日本の外交安全保障を考える良い機会だ。東大の入試問題、面白い。結局、人類は戦争を克服できていない。ただ、日本は、憲法第9条で、国際紛争を解決する手段としての戦争を否定しており、戦前のように戦争を仕掛けることはあり得ない。しかし、ウクライナを見ても分かるように、中国、北朝鮮が仕掛けてきたときにどうするかだ。憲法第9条の精神で、これを防げるとは思えない。ビスマルクの教訓「大国は自国に有利であれば国際法に従って対処するが、不利であれば国際法を無視して力に任せて自国の要求を主張する」は、今でも通用している。ウクライナ問題については、厳しい経済制裁に日本も参加すべきだ。このウクライナ侵攻は、結局ロシアにとって短期的な戦術としては成功かもしれないが、長期的な戦略としては、失敗に終わると考える。ウクライナ問題は、台湾有事にも関係する。日米同盟を踏まえ、台湾有事に備えることが大事だ。

(N氏)北朝鮮問題だが、韓国軍、米軍に比べ、通常戦力では、著しく劣勢。このため、非対称的な軍事能力(核、ミサイル、化学生物兵器、サイバー)に注力。米国の北朝鮮政策は、「話し合い路線」「無視」「強硬路線」で揺れ動いている。中国と北朝鮮は、「唇歯の関係」と言われることがあるが、内実は複雑で、結局は江戸時代の農民政策(生かさぬように殺さぬように)に譬えられるような関係。今年に入って、7回のミサイルが発射されているが、これは、米朝協議が事実上ストップしているために挑発している。日本のミサイル防衛だが、各種のジレンマがある。まず、ミサイルは圧倒的に攻撃側に有利(ピストルの球でピストルを命中させるのは至難)、敵基地攻撃能力も北朝鮮を常時監視する能力が必要だが、容易ではない。北朝鮮問題は長い歴史的経緯のある複雑な問題だが、この脅威に対し、防衛力の強化のみで対応しているのが現状だ。関係国の複雑な利害が絡む極めて難しい問題ではあるが、北朝鮮も受け入れ可能な包括策を作る努力が必要ではないか。米国が朝鮮半島にプレゼンスしていることの意義を過小評価すべきではない。

情報機能の強化は、重要。自衛隊でも統合情報組織である情報本部が設置され、2000人規模で運営。ただ、情報機能を強化すれば相手の手の内が分かるという単純なものではなく、人間の活動であるが故に、人間の弱点が影響を与える。最重要な戦略レベルの情報は情報機能を強化しても分からない。(指導者の頭の中)。やがて何が起こるか知る者は一人もいない(旧約聖書の言葉)(2012年のバラク国防相のシリアについての予言。イスラエル国防軍は10年後の予想はgive up)。キッシンジャーは、情報機関には、政治指導者の決定を正当化しようとする傾向がある、すなわち政策決定を導くというよりは、政策決定に追従する傾向があると警告している。

その後、皆さんから次のような議論があった。

(平和論について)
-プーチンには、現実を見せつけられた。理想を言っても、力がものをいうのが現実だ。
-絶望しかない。アメリカもイラクに大量破壊兵器があるという口実で侵攻した。このような行為をやめさせなければならない。
-安全保障の考え方は近年多様化している。軍事面だけではなく、経済力を強めることも大事だ。日本の国力が強いときは、韓国も日本に学ぶ姿勢だった。
-石橋湛山は、「善か悪か」だけでなく、「得か損か」を考えるべきと主張した。プーチンの独走を許さない仕組みが大事だ。ヒットラーは、国民投票を4回やって、国民の支持を得て、あのような独裁者になった。
-長期的に望ましい方向を考えるうえで、理想論は結構だ。だが、短期的に現実にどう対処するか、現実論も必要だ。
-リベラルなリアリズムが大事だ。東大の入試問題の模範解答、せいぜい50点ぐらいしか、あげられない。ステレオタイプ的な歴史理解だ。30年戦争は、宗教戦争だったが、カソリックの仏のリシュリューは、自国の有利になるように、プロテスタントと組んだ。政治の世界では、善から悪が生まれるし、悪からも善が生まれる。マックスウェーバーは、政治の世界を志す者は、悪魔に魂を売り渡す覚悟が必要と言っている。
-とにかく理想を掲げないで、現実に追従しているだけではダメだ。
-現実を踏まえた理想論が必要だ。核は使えないという点で、ある意味で抑止力になっている。今や、無人兵器やロボットが開発されており、恐ろしい。国連は解体して、再構築すべきだ。

(ウクライナ問題)
-プーチンがあそこまでやるとは思ってなかった。キエフに傀儡政権を作る目的かもしれない。ウクライナ軍がどこまで頑張るかだ。今後、ロシア側の戦死者がどのぐらい出るかが鍵だ。今回の件で、国民がどのぐらい戦う意志を持っているかが大事ということが分かった。
-ウクライナは、北岡先生の「世界地図を読み直す」でも文化大国とされており、大鵬の父(コサック将校)のふるさと。プーチンを説得することができたメルケルがいないのが残念。
-プーチンは、ここ数年、歴史を研究し、スラブ民族としてウクライナをロシアの発祥の地として、何としてもロシアの支配下に置きたいと考えたようだ。ただ、今回の行為は、経済制裁を招き、通貨や株式の下落を引き起こし、ロシアの崩壊につながると思う。日本のマスコミでこうした論調があまり見られない。(ロンドンエコノミストでは、プーチンのまずい仕事というタイトルで、そのことに言及している)
-トランプはプーチンを天才と言っている。(とんでもない議論だ。)
-核のテロの心配はないのか?(ソ連崩壊の後、全量、ロシアに運ばれている。)
-経済制裁には、ある程度時間がかかるが、粘り強くやっていくしかない。

(北朝鮮問題)
-北朝鮮が南進する可能性は?(有事の際は、在韓米軍の司令官が、全体の指揮をとることになっており、韓国はこれを改めたいと思っているようだが、まだ、実現していない。)
-韓国も核武装すべきが世論調査で70%だ。
-日本の核武装だが、東京、大阪という人口密集地を有するため、核兵器の相互抑制論が働かない。こうした大都市を一発目で破壊されたら、相手型を破壊するといっても、それほど大きな被害ではないので、抑止力が効かない。
-(拉致問題を含め、包括的な解決を図るのは大事だが、どう相手方と糸口を掴むか)トランプのとき、チャンスはあったかもしれない。なかなか容易ではない。
-日本の海外駐在武官はどのぐらいか?(85大使館に70名)
-スイスは、武装中立だ。戦闘機290機、戦車2000台、民兵60数万人(いざとなると召集)。ヒットラーに対し、ギザン将軍が陣頭指揮して国境を守った。

(文責 塚本 弘)

GJ研究会 – 令和日本のヴィジョン:「教育、人材育成」

日時:2022年1月28日(金) 午前10時から午後1時
場所:ZOOMに依るオンライン開催
参加者:18人
テーマ 教育、人材育成

議事要旨
先ず4人から報告があり、その後、議論を行った。

(小野)「文部省解体を論ず」、日本は、革命を起こさないと変わらない。明治から太平洋戦争まで77年は、近代化を目指し、最後には戦争に敗れた。終戦後77年は、経済発展を目指したが、今は転換期に立っている。これから77年後の2099年にどのような国を目指すか。ポストコロナの時代は、答えのない時代だ。正解のない時代には、自ら答えを導き出す能力が必要だ。明治以降、日本の教育は、国に役立つ人材を育てることを目標にしてきたが、これからは「一人一人の個性が発揮されるような教育」「知識の詰め込みではなく、個人の潜在能力を活かす教育」を目標にすべき。その意味で、文部省は解体し、新たな道を目指すべきだ。ユニクロの昨年12月23日の全面広告は、「求む。服を変え、常識を変え、世界を変える人」。この視点も大事だが、世界が英語化、進歩主義、科学主義に向かっている中で、日本は、ガラパゴスとして、独自の良さを守り抜くべきではないか。

(多田) 岩倉使節団の一員の田中不二麿は、「丁寧な調査から良質な情報が得られる」とし、その基礎となる教育体制の構築に貢献した。今、学校教育は大改革中だ。一つは、「高大接続」ということで、高校、大学入試、大学を三位一体で改革しようという試みだ。これにより、ドリル学習から脱却し、主体的な発想が出来る多様な人材を育てようとしている。もう一つは、「学習指導要領」の改革だ。こちらも10年に一度の改革で、自分で考えて、様々の問題に対応する能力を育てようとしている。令和日本ビジョンとして予想されるのは、「地球温暖化」「SDGs」「戦争のない社会」「今後の学校教育のあり方」など国民的議論が欠かせない内容であろう。そのためには、多くの国民の知識を増やし意識を変革する必要があり、膨大な社会人教育が必要となる。その実現のためには、多くの教育ボランティアが必要である。ボランティアを増やすには利他の心を持った人々を増やすことが一案である。

(三島) 製造業における人材育成について、述べたい。自分の経験で、大学で学んだことで役に立ったのは、実験レポートの作成で思考錯誤したことだ。実際に製造現場でうまく行かなかったとき、この経験を踏まえ、データを分析し、仮説を立てて、何回か試行錯誤を繰り返して行くうちに、解決に至った。会社の人材育成では、アメリカ企業はかなりの資金をこれに当てている。社会では、文章能力が求められるが、この基本は、論理力で国語が大事だ。統計処理など数学も重要だ。学校で、数学、国語の基礎をきっちり教えることが必要と考える。

(泉) 教育に関し、「五か条の御誓文」の第三条では、「官武一途庶民に至るまで其志を遂げ人心をして倦まざらしめんことを要す」とされている。伊藤博文は、「国是綱目六か条」で「自在自由の権」と「職住の適意」を主唱し、幕藩体制下の身分制、職住の束縛からの解放を訴えた。佐々木高行は、米国でミンスローという人物から「日本は数千年の歴史を有する文明国で、技術や法律は足りないが、道徳や宗教についてはむしろ他国より進んでおり、今さら他国の宗教を採用する必要などどこにあろうか」と言われる。久米邦武は、実記の第五巻で、「そもそも西洋人は資性元悪なり、欲情の熾なるごとく、求福の情もまた熾んなり。」として、道義国家日本とは異なるとしている。ただ、米国で実学を重視していることに感銘を受け、日本では、「高尚の空理、浮華の文芸」に編って「民生切実の業」を軽視していたことを猛省している。福沢諭吉は、「天は人の上に人を造らず、人に下に人を造らず」とし、実業につき、銭を稼げと発破をかけたが、富の追求だけでなく、「精神の高尚」も要件としていたことは、忘れてはならない。すなわち、和魂洋才である。ただ、グローバル化した現在では、球心球才が重要だと思う。

その後、皆さんから次のような議論があった。
–大学で長年教鞭をとっていた。文科省や大学事務局には不満が一杯だ。共通一次の監督を大学の教員にやらせるのはおかしい、エリートを育てる仕組みがないのも問題。

–OECDのEducation 2030では、2030年には6割が今はまだない仕事とされている。博士号を持つ人が減っているのは日本だけ。尖った人材を育てるべきだ。

–エリートも大事だが、どの組織でも、大体2割がエリート、6割は普通の人、残り2割が落ちこぼれといわれる。エリートは放っておいても伸びるが、大事なのは、6割をどうレベルアップするか、落ちこぼれをどう少なくするかではなかろうか。

–デビット モルレーは明治初めの日本の教育体制の整備に貢献した。

–堤未果「デジタルファシズム」では、子供がスマホに溺れる危険を訴えている。自分で考える力を失くしてしまうおそれがある。ジョブズも、ビルゲイツも、自分の子供にはスマホを与えていない。学校でタブレットを与えることに反対。

–今や、ITを使いこなせないと社会から、切り離されてしまう。自治体も老人にITを教える活動を行っている。

–これからは、プログラミングぐらいできないと時代に遅れてしまう。ホリエモンは、ITの専門校を作ろうとしている。

–子供には、好きなことをやらせてはどうか。

–暗記も必要かと思う。こうした過程を経て、湯川や北里が生まれたと考える。もちろん、考える力を育てることは大事。国全体のことを考えると、先ほどの6割の人々をどう切磋琢磨させるかも大事だ。

–4点指摘したい。(1)考える能力を育てる。このためには、知識が必要。子供にはある程度強制がないとダメ。(2)これからは国際性が必要。外国に行くと、日本がいかにいい国かということが分かる。(3)貧乏な家庭に生まれた子にも教育の機会が与えられることが大事だ。(4)志ある人を育てる教育が望ましい。

–大谷翔平の使っていたマンダラチャートは、体力、知識、勇気を養う良い方法だ。渋沢栄一の母の言葉「あんたが嬉しいだけじゃなくて、みんなが嬉しいのが一番」は大事な教えだ。

–政府は最近「教育未来創造会議」を発足させた。安宅和人氏や長野県知事がメンバー。日本ではユニコーンが少なく、いかに「カドのある人材」を育てるかが課題。最近、蜘蛛の糸を人工的に合成して注目を浴びている関山和秀氏は、幼稚園から慶應で受験勉強なし。得意なことだけをやって来た。ユニクロの広告、面白い。こういう人材が必要だ。

–ボランティア活動の日々を過ごしている。ボランティアがもっと広がるようにしたい。若者が生きづらそうだ。学歴にこだわらない社会に賛成。池内了は、科学技術の危険性を指摘している。

最後に、プレゼンをした皆さんから一言ずつ。

(小野)教育の問題は、我々が未来をどう考えるかの問題とも言える。2045年には、人工知能が人類の知能を超えるシンギュラリティ(技術的特異点)に至るという議論もある。自分は、あくまでも進歩を目指すことには懐疑的だ。日本はガラパゴスでいいのではないか。

(多田)3時間話したが、結局議論は深まっていない。

(三島)ITはツールと考えればよい。大事なことは、考える力。その意味で、数学は大事だ。

(泉)3時間の議論、よかったと思う。ただ、これを整理して、続きの議論でさらに深めることが大事だ。進歩はし過ぎたらダメだ。

(文責 塚本 弘)

GJ研究会:「明治維新の意味及び今後の日本のあり方」

日時:2021年12月14日(火) 午前10時~12時30分
場所:ZOOMに依るオンライン
参加者:17人
内容:明治維新の意味及び今後の日本のあり方

議事要旨本年7月の北岡 伸一先生の講演を踏まえ、我々自身で明治維新の意味を議論するとともに、令和日本のあるべき姿についても議論した。

まず、森本敦之氏から、北岡先生は、明治維新は西洋列強からの脅威に対し、近代化を遂げなければ日本の独立は維持出来なかったと考えて行った「近代国家制度」構築のための革命であったと評価しておられると総括された。

また、明治維新のキーワードは、「公議輿論」で、政治を担う意思と能力のある人間が、私的な利害は度外視して、国益だけを考えて、徹底して議論してベストの議論を取った。岩倉使節団は、海外に学び大いに視野を広げた。何よりも、リーダーシップがとれる人材(阿部正弘、勝海舟、西郷隆盛、大久保利通など)が輩出し、また、リーダーは出身藩、身分の上下に拘らず、有能な人物を探し出して登用した。

このような考え方を今の日本にどう活かすか。「現代の日本は極めて閉塞的な状況にある。そのために何をなすべきか。簡単な答えはない。ただ大事なことは、最も重要な問題に最も優れた人材を集めて取り組んでいるかということである。それを明治維新の歴史は教えてくれている。」と北岡先生は述べておられる。

これに対して、日本の状況はどうか。今日の日本は、「課題先進国」だ。少子高齢化への対応と財政再建、A I/DX対応と国際競争力、安全保障と外交、国内の災害列島対策と地球的気候変動対策など、正に“新しい国のあり方”が問われている。今こそ、大久保利通やメルケルのようなリーダーが出て、広く人材を登用し、機能不全や制度疲労を起こしているこの国の危機に対し、“令和維新”を起こすべしと警鐘を鳴らすべきではないか。

次に、塚本から、グローバルジャパンの幹事メンバーで議論した結果の紹介があった。
ビジョンについては、少子高齢化など具体的な課題を取り上げて議論を深めていくことが必要だ。また、20周年の記念シンポジウムでも「美し国ニッポン」ということで、近藤誠一氏にも共鳴していただいたが、これ以上の成長を目指すのではなく、文化的で暮らしやすい日本を目指すべきではないか。政治のあり方に関しては、政治家、官僚、メディアいずれも明治の先達のような気概が感じられない。この一因は、危機感の欠如ではないか。今も、中国、北朝鮮に囲まれて安全保障上は大きな危機だ。人材はいないわけでなく、どこかにいる。これをどう見つけて登用するかだ。政治家だけに任せていても日本の未来は拓けない。経済界ももっと政治に向かって注文すべきだ。「青天を衝け」でも、商工会議所が建白書を出すシーンがあったが、今の経済界はそういう気迫に欠けている。メディアも政局ばかり論じていて、石橋湛山のような天下国家のあり方に対する卓見を述べる人が少ない。なぜ、今、ホンダ、ソニーなどが出てこないのか。ベンチャー企業を育成する仕組みが不十分だ。北岡先生は、世界の途上国に日本の経験を伝えることが大変重要とされた。アフリカなどでは、多くの国がまだ維新前夜だ。中国は鉄道、道路、港湾などのインフラ整備を進めているが、日本は教育、医療などソフトなインフラ作りに貢献すべきではないか。

泉 三郎氏から、令和日本のビジョンについて、建設的提言であり、明治創業の精神、知識に学ぶこと、近代文明を超えるもの、という3つの条件が示された。さらに、立論の基礎に岩倉使節団の群像や留守政府の要人、その他の重要人物たちの発言、提言、語録、日記、手紙などを引用することにより、明治創業世代の精神と知恵を立体的に学ぶことができるとされた。2021年は新型コロナ大旋風が吹き荒れ、数百年にわたった科学技術文明、資本主義文明に猛省を促す大警告を発した。現代文明の大樹は余りにも繁栄し、余りにも複雑になり、その分、根や幹がやせ細り、その中で、人間そのものも衰弱し、劣化してきているのではないか。我々は今こそ明治初年に回帰して、謙虚に「人として生きる」ことの意味、「文明と人間の関係」を問い直すべきではないか。

その後、皆さんから以下のようなコメントがあった。
–来年、日本のあり方についての主要課題について、議論したい。人材こそ最重要課題で、このためには、教育のあり方を論ずるべき。歴史部会とも互いに交流深めるべきだ。中国とは、仲良くすべきであり、抑止論を脱却すべきだ。

–岩倉使節団は西洋社会を丸ごと理解しようとしたが、今は、地球を丸ごと理解する必要があり、それに対し、日本は何をすべきかを論ずるべき。アフガニスタンで亡くなった中村医師のように、途上国への貢献が大事だ。教育では、薩摩の郷中教育、長州の松下村塾などの人作りに学ぶことも重要だ。伊藤博文が、韓国統監時代に、清国の領土への進出は避けるべき、中国の離反とともに、諸外国から敵と見做されると述べていることは大事だ。

–移民問題(高度の技術者を含む)を論ずるべきだ。世界から尊敬される日本を目指すべきだ。

–日本の未来にとって大事なことは、創造的破壊だ。明治も、そして戦後の日本も、農地改革のような創造的破壊によって、発展を遂げた。今の日本は既得権益で硬直化しており、経済の新陳代謝も遅れている。世界のユニコーン900社のうち、470社がアメリカ、日本は6社だ。

–明治維新の光と影を考えるべき。明治の国威発揚の犠牲もあり、負の遺産はまだ続いている。

–どうも、皆さんの議論は一方的に主張するだけで噛み合っていない。(これに対し)今回は、それぞれ考えていることを述べてもらうが、これからは絞った課題について、議論する予定である。

–教育では、明治初期の工学教育に活躍したヘンリー・ダイアーに着目すべき。産経新聞では、今年5月から「転換点を読む」という特集をしており、日本の今後について論じている。ダイアーは、150年間を見通して、著書「大日本」で、日本人の可能性を論じており、日本人が模倣ばかりしているという見方はあまりにも時代遅れであるとしている。

–外国の半導体を日本に導入する仕事をしているが、ソフトウェアはほとんど英語で書かれている。世界から見ると、日本はガラパゴス化している。

–創造的破壊を日本で行うのは、難しい。明治維新も先ず破壊があって、それから岩倉使節団が外国に行って青写真を書いた。戦後も、先ず敗戦という破壊の後に、創造があった。今、日本は沈滞していると言われているが、それでも世界第3位のGDPを誇っており、資産では世界一だ。これを壊すのは、難しい。

–基本的な点だが、これ以上成長を目指すべきかどうか、この辺で、じっくり考えるべき。

–今後テーマを絞って議論していくべき。また、明治以降の日本は、欧米をモデルにし、かつ、中央集権的に発展してきたが、今後は、どういう形で進むべきか。今後の日本の進むべき道を考える場合、色々足りないところはあるかもしれないが、今ある現状を踏まえて、方向付けをしていくのがいいと考える。

–課題先進国の日本だからこそ、世界に対し、良い解決のモデルを提示出来るし、することが責務であろう。コロナ、気候変動といった人類にとって大きなテーマについても、地球市民の一員として、解決策を示すことが望ましい。

–それぞれの方々から体験を踏まえ、よいご意見をいただいた。これから、テーマを絞って議論していくこととしたい。今日の議論の中で、伊藤博文が韓国統監時代に中国への進出を控えるべきとしたこと、ダイアーが日本人の発展の可能性を高く評価していたことなどは、印象的だった。また、歴史部会との関係で、グローバルジャパン研究会は未来を考えるが、相互に交流することは大事だと考える。
(文責 塚本 弘)

 

 

GJ研究会:「中国問題」

日時:2021年10月27日(水)10:00 ~13:00
場所:zoom
参加者:17人
タイトル:中国問題
議事要旨
9月の国分良成先生の講演を踏まえ、我々自身で中国問題について、さらに掘り下げようということで、活発な議論が行われた。

まず、三島研一氏から、中国をどうとらえるか、日本はどう対応していくかについて、プレゼンがあった。習近平の「中華民族の再興」という方針の下、欧米との摩擦は増加しており、日本としても「政経分離」というこれまでのやり方ではなく、経済的安全保障を含めたリスク管理を行なうことが必要。アメリカの対中政策だが、気をつけるべきは、アメリカ政府の中国政策とは別に、アップル、ウォールマートなど米国企業がグローバル分担体制の中に中国を組み込んでいる点だ。次いで、質疑応答があった。(最近寝そべり族が出ているようだが、その背景は?)とにかく、受験競争は異常なほどだ。いい大学に入れないで、やる気を失う若者が相当いるのは事実だ。(中国で赤い資本主義はどの程度進んでいるのか)上海などで、株式市場はそれなりに発展しているようだ。(戸籍制度はどうなっているのか)基本的には、都市戸籍と農村戸籍は区別されており、農民が都市戸籍を得るのは難しい。ただ、近年成都、重慶などで、規制緩和の動きもあるようだ。(今、中国で、「論語と算盤」が人気なようだ。行き過ぎた資本主義は見直されるのではないか。また、世界の発展の中心はアジアだ。中国を含めたアジアの繁栄をどう考えるかが大事だ。)(アリババ、テンセントなどはIT技術を駆使して、金融分野にまで進出しており、共産党もコントロールできないのではないか)石油など多くの基幹産業では国営企業が中心であり、IT産業でも、政府の統制が今後強まると考える。

次に、塚本から、日本企業の中国対応について、プレゼンがあった。中国への日本企業は約13600社にのぼり、2020年の世界の中国への海外投資はアメリカを上回っており、中国市場の大きさは無視し得ない。ただ、欧米企業には、「中国撤退」(ニューズウィーク誌)の動きも見られる。北京日本商会も行政の規制、運用手続きについての予見性、透明性の欠如を問題にしており、各国の商工団体が協力して政府に働きかけることが重要。中国のTPP加盟には、多くの問題があり、難しい点はあるが、アメリカの加盟を得て、加盟交渉を梃子に各種規制などについて粘り強く改善を求めるべき。アリババ、テンセントなどへの規制強化については、個人データの保護が不十分であったり、寡占による弊害が見られるなど、経済の質の向上という観点から取られた措置という見方がありうる。質疑応答では、(中国では、データを外に出すことが禁じられており、久保田のトラックターは、世界中の情報を本部で集めてメンテナンスに役立てているが、中国だけはクローズドな形になっている)。(TPPについては、中国の加盟申請を梃子にして、しっかりと世界と同じ形になるように持っていくべき)などの意見があった。

小泉勝海氏から中国の科学技術について、プレゼンがあった。今、米中は熾烈な技術覇権争いを行なっている。中国政府は国家による戦略的科学技術力の強化を宣言している。質の高い科学技術論文が増えており、材料科学、工学など8分野の5分野で首位になった。特許も9分野でトップ。AI研究でも米国を逆転。科学技術投資54兆円は、日本の3倍。こうした中国と、科学技術分野で、どう付き合うべきかというプレゼンがあった。質疑応答は次のとおり。(宇宙開発では、ロケットなどはロシアの協力から始まったようだが、最近はどうか)最初はロシアからの協力があったが、その後、中国の宇宙開発は驚異的な発展を遂げた。今は、世界中から優れた科学者を集めている。慶応大学の青木節子教授は、「中国が宇宙を支配する」という文藝春秋の論文で、世界初の量子科学衛星の脅威について書いている。(原子力については、今や米国、仏に次ぐ発電所を保有しており、小型原子炉についても、精華大学で開発をしており、そろそろ実用化される見通しだ)日本としても、岸田政権で科学技術立国を目指すとしているが、抜本的に予算を投入すべきだ。

最後に、鎌田昭良氏から、「中国軍の近代化と台湾・尖閣問題」について、プレゼンがあった。中国の軍隊(人民解放軍)は、共産党の軍隊という特徴があり、近代化を進めているが、未だ米軍に後れをとっている。空母遼寧はウクライナの中古であり、スキージャンプ方式のため、艦載爆弾などの収容能力が低い。人民解放軍の行動には強硬さが目立つ反面、慎重な対応もある。すなわち、尖閣でも、軍ではなく、海警が前面に出ている。尖閣問題については、我が国としての備え(海保、警察、自衛隊)の強化が重要、また、米国の安保条約に基づくコミットメントは不可欠。他方で、緊張のエスカレーション・ラダーを上げないようにする慎重さが求められる。台湾問題については、200キロ近い台湾海峡があり、大規模侵攻部隊が上陸するのは容易ではない。また、米国の動向もあり、軍事侵攻のリスクは巨大。中国にリスクが巨大と思わせ続けることが重要。

質疑応答は次のとおり。(日本の防衛力強化だが、スイス、スウェーデンなどモデルになる国はあるか)ヨーロッパの国と比べると、日本の軍事的脅威は比較にならないほど大きい。中国のみならず、北朝鮮、ロシアに囲まれている。これに対抗するには、軍事だけでは無理で、総合的な外交力、そして何よりもアメリカと一緒ということを見せる必要がある。アメリカの一部には、尖閣のあの岩を守る必要があるのかという議論もあり、まず、日本が先頭に立って自国を守るという覚悟が大事だ。(日本には、軍事アレルギーがあるのが、問題だ。武器輸出は近年緩和されたがどうか。インテリジェンスやサイバー対策も重要。)武器輸出ではなく、「装備品の海外展開」と言っている。同盟国には、OKだ。インテリジェンスは、日本独自には、電波情報ぐらいだ。サイバー対策も、一周、二周遅れだ。(台湾有事は、ある米国の軍人によると、7年以内に起こる、しかも、模擬戦では、米国が負けるとの分析もあるがどうか)国分先生もはっきり言っておられたように、台湾有事にはならないと思う。アメリカ軍人の話は、冷戦のときにソ連の脅威を訴える議論があったように、予算確保の狙いもあっての面がある。台湾側が何もしないのに、中国による一方的な軍事侵攻は考えがたいし、200キロの海峡を渡り、さらに高い山脈もあり、侵攻は容易ではない。また、偵察衛星で軍事的な動きは常にチェックしている。

(文責 塚本 弘)