GJ研究会:「令和日本のビジョン 外交安全保障、価値観の大転換」

日時:2022年8月26日 10時から12時45分
場所:zoom
参加者:13人
テーマ:令和日本のビジョン 外交安全保障、価値観の大転換

議事要旨
2人から報告があり、その後議論を行った。

(塚本)首相官邸のホームページでは、外交安全保障の基本として、次の3つが挙げられている。(1)普遍的価値を守り抜く(2)我が国の平和と安定を守り抜く(3)地球規模の課題に向き合い、人類に貢献し、国際社会を主導する。このうち、特に、ウクライナ戦争が起こった後、我が国の安全保障が差し迫った課題になっている。先日、五百旗頭先生は終戦の日にテレビ出演され、「77年前に日本は滅んでしまった。二度とこれを繰り返してはならない。」と述べられた。戦前に日本は戦争を選んでしまった。今の日本は、戦争を仕掛けられる危機に直面している。大事なことは、スッポンのように、日本に下手に手を出すと、ガブっと噛みつかれると相手に思わせるような防衛力を持つことと言っておられた。中国とどう向き合うかが大事だ。中国は2049年の建国100年記念までに「一つの中国」を目指している。香港での容赦のないやり方が共産党中国の本質だ。先日、香港映画「憂鬱乃島」を見た。印象的だったのは、あなたは何人ですかという質問に答えるところ。中国人でも、英国人でもなく、香港人と答える。英国領時代に学校で英国国歌を歌うシーンもあった。台湾問題の今後の展開がどうなるか。台湾有事になれば、沖縄の米軍が巻き込まれる可能性が大きい。先日のペロシ下院議長の台湾訪問で、日本の排他的経済水域に5発のミサイルが発射された。これまで、日中関係については、安全保障については対中対決路線、経済では日中協商ということで進めてきたが、経済でも経済安全保障の考え方が強まっており、対中強硬路線を取らざるを得なくなりつつある。先日、佐野大使から、これまでの大国間の対立は16回あったが、そのうち戦争を回避できたのは4回のみという話があった。ただ、長期的に中国共産党体制がいつまで続くか、見極めることも重要だ。エズラ ボーゲル氏は、鄧小平には若い頃パリに居た経験があるが、習近平は、若い頃地方で厳しい生活しか経験していない、この2人の差は大きいと五百旗頭先生に言っていたそうだ。国分先生は、指導者の交代のルールが決まっていないところに、今の体制の脆さがあると指摘しておられた。

アメリカとどう付き合うか。日米安保条約は日本の外交安全保障の基本であることは言うまでもない。ただ、アメリカにはアメリカの国益があり、日本には日本の国益がある。対米重視はよいが、対米優先であってはならない。例えば、サハリン2は、日本のエネルギー確保にとって重要なので、制裁の対象とはしないとのアメリカへの働き掛けも大事だ。核兵器禁止条約について、ドイツはオブザーバー参加している。唯一の被爆国として、日本もオブザーバー参加するのはどうか。アメリカの歴史を見ると、「戦争をしないアメリカ」が本質ではないか。今回、ウクライナについても、バイデン大統領は、「ロシアが侵攻しても、米軍は派遣しない」と言ったのは、失言と言われているが、本音を漏らしたとも言われている。もちろん、こうしたときのお決まりのセリフ「あらゆる選択肢はテーブルの上にある」と言った方がよかったのはいうまでもない。

「岩倉使節団」を契機とした日本の近代化は、多くの開発途上国のモデルとなった。今も日本の経済技術協力への期待は大きい。アセアン諸国の信頼する国として、中国19%、日本16%、米国14%。日本の若者のもっと海外に行ってもらいたい。2004年の海外留学生82945人が2019年には61989人に減っている。ヨーロッパでは、大学間交流プロジェクトエラスムス計画によって若い学生がとても逞しく育っている。自分の経験でも、日欧産業協力センターの企業研修プロジェクト(ヴルカヌス計画)によって、若い学生が一年経つととてもしっかりした顔付きになっている。

その後皆さんから、次の議論があった。

-首相官邸の3点の中に、「自由と独立」いう言葉がないが、これこそ大事な点であり、入れるべきだ。普遍的価値として、民主主義、法の支配などが挙げられるが、これらは普遍的価値ではなく、舞台装置に過ぎない。本当の普遍的価値は個人の尊厳だろう。「日本が滅んだ」との議論だが、日本は滅んでいない。戦前の日本が戦争を選んだという点についても違和感がある。戦争を選ばざるをえないようにさせられた面があるのではないか。中国の南シナ海への進出は法の支配を無視したやり方で受け入れがたい。台湾有事は、沖縄有事と考えてよいだろう。中国については、日中協商は今後益々難しくなるのではないか。経済安全保障の観点から、厳しい対応が必要になるだろう。中国共産党体制については、中国経済が国を支えうるのか、恒大の問題などが出ており、なかなか大変だろう。核兵器禁止条約については、この条約に入った途端に、米国による核抑止から離脱することを意味するので、日本としては、そのような選択はし難い。ドイツは左派政権なので、オブザーバーにいるが、日本はそのようなオプションは取るべきではないと考える。アメリカのモンロー主義だが、当時は、古い欧州には関わりたくないという考え方があったが、アメリカという国は、外に出るときと、内に籠るときがあり、波のある国と考えた方がいいのではないか。アセアンの信頼する国で、中国19%、日本16%だが、アメリカと日本を合わせると30%と考えた方がいいのではないか。

-防衛問題だが、今年の12月に防衛大綱などの見直しが行われる予定であり、防衛力の強化が打ち出されることは、基本的に正しいと考える。ただ、軍事力だけで日本を守り切れるかというと、一定の限界があることも認識しておくことが大切だ。ミサイル攻撃を100%防ぐことは、困難であり、原発などを攻撃されても、守り切るのは難しい。日本の核保有という議論もあるが、日本のように狭い国土で人口が密集している国では、核のパリティを実現することは困難であり、核保有については、現実的ではないと考える。軍事力だけでなく、外交力も含めて、安全保障を考えることが必要だ。ただ、中国や北朝鮮のように体制の異なる国と、実際にどういう形で対話をして安全保障体制を構築するかは、容易でないことも確かだ。日本の安全保障戦略を考える場合、防衛力の強化に焦点が当たりがちだが、自国の脆弱性を考えることも重要と考える。明治の指導者達は日本の弱さを十分自覚して、必要な対策を考えたと思うが、今は、防衛力を強化して相手を抑止する方にばかり議論が向かっているような気がする。自分の身の丈に合った服を着る、すなわち、自国の体力にふさわしい安全保障体制を築くことが必要と考えるが、今はどうも、そういう考え方があまりなく、もっと頑張れば出来るというような形で議論が進んでいるように思い、懸念している。

-民主主義などは、普遍的価値ではないという議論、なるほどと思った。身の丈に合った防衛をという議論も大事だと思った。米中対立の中で、日本が両国が共存出来るように努めることが大切だ。

-核兵器の問題だが、プーチンでさえ、核を使用することには、慎重だ。核を使ったら、世界の破滅に繋がるからだ。すなわち、今や核兵器はホワイトエレファントのように、使えない兵器なっているのではないか。こうした無用の長物の核の抑止論に縛られ、唯一の被爆国である我が国が何もできないのは、おかしい。抑止論だが、抑止力にとらわれている限り、無限の軍事拡大に陥るおそれがある。保阪さんによると、明治以降の日本の77年は、帝国主義により戦争に向かって行った時代、戦後の77年は、平和の時代、2200年まで来年からちょうど77年、日本はどこに向かうのか。若い人達に考えてもらうことが大切だ。このためには、政治についての教育や、明治以降の近現代についての教育をもっとやるべきだ。明治維新の意味は若者が自らの未来を作ったことだ。今の若者達に、自らの力で未来を切り開くことを期待したい。小学生には、得意なものをやるようにし、中学生以降は、議論をどんどんやるようにしてもらいたい。

-核兵器が無用の長物という議論について反論したい。ウクライナを見ても、ロシアもNATOも核を持っているが故に、ある種の制限戦争をしていると考えている。核の抑止が働いている。日本がアメリカの核の傘から離脱することは、北朝鮮や中国の脅威を考えると現実的ではない。もちろん、長期的には核がない世界が理想だが、この理想と現実の間をどう繋いでいくかが、我々の直面している課題だと考える。

-人に信用できる人とできない人があるように、国にも信用できる国とそうでない国がある。ロシア、中国は、信用できない国だ。そういう国に囲まれているのが、我が国の現実だ。核の抑止は明らかに働いている。アメリカを考えるとき、大事なことは、アメリカは一枚岩ではないということ。民主主義の国だから、色々の意見があるというのが、アメリカだ。

-ウクライナの停戦を1日も早く実現するべきだ。国連の改革を行うべき。アメリカが本当に日本を助けてくれるか、よく考えるべきだ。

-日本の課題は、G 7やダボス会議などのグローバルな場で、堂々と意見が言える人材が少ないことだ。もっとグローバル人材を育てる必要がある。日中は今年、国交回復50周年を迎える。先日の楊、秋葉の7時間に及ぶ会談をどう見るか?

-長時間会議を行い、互いの誤解を避けることは、よいことだ。気を付けるべきは、中国が米国と日本の離反を狙っていること、これは、米韓についても同様だ。このような中国の狙いを十分認識しておくことが大切だ。

核の抑止論について、猜疑心によって、無限の核拡大の懸念があることはその通りだ。このため、中国に対し、軍備管理交渉を行うべきと米国に提案している。これによって、核のみならず、通常の兵器、宇宙、サイバーなども含めた軍備の管理を狙っている。問題は中国がこのようなやり方に慣れていないので、査察の受け入れなど、この交渉の前提にも消極的な点だ。宇宙の平和利用、ミサイルの早期警戒など中国に関心のある項目を取り上げて、交渉の場に就かせる努力が必要だ。核はホワイトエレファントだという議論があったが、「安定不安定逆説」がある。今のウクライナは、戦略核レベルでは互いに使えないということで、安定している。しかし、このために、戦術面では、不安定になっている。ロシアの保有する核は、広島(14キロトン)、長崎(17キロトン)より遥かに小さい0.5トンや0.3トンの戦術核だ。これの使用可能性を、生物化学兵器と同様に、関係者は懸念している。今年の3月、バイデン政権は統合抑止という構想を打ち出した。軍事だけではなく、経済面も含めた抑止力を展開しようとしている。日本もこれに協力して、東南アジア、島嶼国に働きかけをすることが望ましい。

-外交安全保障を論ずるに当たって、4つの事実関係を指摘しておきたい。まず、この前の戦争というとき、多くの人は、対米戦争を思い出すと思うが、その前に十数年、対中戦争や韓国、台湾などとの関係があったこと、そうした国々の国民が日本をどう思っているか、考えておくことが必要だ。次に、敗戦のとき、日本の外で何が起こっていたか。五木寛之氏は平壌の近くで、国から捨てられて悲惨な経験をした。彼は、棄民だったと言っている。三つ目は、戦後77年、何とか平和を保ち、戦争が回避出来たこと。四つ目は今軍事費をGDPの2%とかの議論があるが、日本は世界の中で6~8位ぐらいの軍事力を持っている。この事実を踏まえて、考えることが大事だと思う。

-(森本)コメンテーターの役割を求められたが、外交、防衛の専門家の方から、素晴らしいコメントがあったので、それほど付け加えることはないが、米国のトップはしばしば交代する。日本として、日米安保条約に安住することなく、しっかりと日本自身の外交安全保障戦略を持つことが重要であることを指摘しておきたい。

次に、泉さんから、価値観の大転換と題して、次のような報告があった。

(泉)「つぶやき」ということで、いくつかの提言をまとめてみた。一言で言うと、「価値観の大転換」だ。我々は、GDPの数字に一喜一憂したり、世界何位かなどにこだわって来た。しかし、一回ゼロベースで考えてみてはどうだろうか。さっきも話があったが、民主主義も資本主義も、所詮道具に過ぎない。主人公は人間。しかし、人間も自然の一部であり、自然界の大摂理の一員に過ぎない。人間は、科学技術の進歩や経済成長を追求することが善だと思っているが、そうではないのではないか。一番大事なものは、ありきたりな言葉だが、幸福だ。幸福というと、ちょっとスタティックな感じもあるので、生きがいと言ってもよい。そして、人は一人で生きていけない。家族があり、コミュニティーが大事だ。これがさらに広がると、地方自治体であり、最後は国になり、国際社会になる。人間にとって、大事なもう一つのことは、社会が戦争のない平和であることだ。個人が幸福であり、社会が平和であること、この二つが人間にとって大事な目的であり、それ以外のものは手段に過ぎない。我々は、どうも手段を目的と勘違いしてきたのではないか。この際、ゼロベースでこれまでのやり方を振り返って、一番大事なものは何か、よく考えることが必要ではないか。
次に、12の提言をしたが、今日はその全部について触れる時間はないので、一部について、お話ししたい。
まず、延命至上主義からの解放だ。過剰医療をやめて、尊厳死を認める方向が望ましい。次に教育問題。英語を教えているが、本当に英語が必要な人は何%いるだろうか。モチベーションさえあれば、NHKの講座でも十分学べる。昔は師を求めて、私塾を渡り歩いた。本当に学びたいことが学べるような教育体制を作るべきで、教育改革が必要だ。さらに、金はほどほどあればよい。アメリカの超金持ちは、金は持っているが、何らかの問題を抱えていると言われている。道楽というか、金にならないが人の役に立つ仕事が最高だ。GDPよさようなら、QOL(クオリティ オブ ライフ)よコンイチハ。数字で表せない価値、質の高い暮らしが大切だ。テイッシュもビニール袋も安過ぎる。こんな貴重なものが安過ぎるために大量消費されている。資源保護のためにしっかり税金をとるべきだ。さらに、国連改革、安宅和人さんは、シン ニホンということで、日本の改革を主張しておられるが、シン コクレンという国連改革が必要だ。米中の対立だが、これは幕末の薩摩と長州の対立のようなものだ。日本は、土佐や肥前のような立場だ。うまく両者の間に入って仲介の役割を果たすべきだ。

これに対し、以下の議論があった。
-自分は以前「人生三色計画」ということで、45才、60才、70才で違う人生を生きるのが面白いとお話しした。老年になったら、これまでのご恩返しということで、ボランティアをお勧めしたい。城山三郎は、老年期の生き方として、「活き活き」「卑しくない」「生涯一書生」と言っている。

-外交安全保障はやはり専門家の意見が大事で、素人がなかなか論じることは難しい。泉さんのつぶやき、面白かったが、やはり、自分の意志と能力を保ちつつ、自立の精神を持って努力することが大事だと思う。社会への恩返しも大事で、自分もその気持ちで、日々努めている。

-日本が北朝鮮や中国から攻められるとしたら、日本の価値とは何だろうか。我々自身がこの国を守るため、もう一度、日本の価値とは何か、よく考える必要があるのではないか。

-中国の共産党体制がいつまで続くかという問題について、経済がおかしくなって暴動が起こる可能性もあるが、その際に、外部に注意を外らせるために台湾に侵攻したりするおそれがある。こうした動きに対して、日本はどう対応するか考えておくことが大事だ。

-(森本)泉さんの12の提言、いずれも重要なポイントだと思うが、これをビジョンのような形で考える場合、どういう方向を目指すべきというか、色々考えてみたが、一つのアイデアとしては「若者が希望を持てる国」ということかなと思っている。しかし、イェール大学の成田祐輔氏は、「22世紀の民主主義」という本で、日本は鼠色の雲に覆われている、停滞と衰退の積乱雲だと言っている。一番のポイントは、若者がマイノリティになっていることだ。少子高齢化の影響で、日本人の平均年齢は48才で、30才未満の若者は26%しかいない。選挙では若者の声は反映されないので、成田氏はアルゴリズムを使ってデータ分析し、政策の決定をすることを提案している。

-大変、興味深い提案だ。こうした政策を実現するのが政治家だ。泉さんの提言の11番目に今最も重要な仕事は政治。そこに劣等な人材?が巣食っているとある。これを何とかするための方法を具体的に考えないと日本は変わらない。本来は、政治家が大きな方向の政策を掲げて、選挙でこれを選択するという二大政党制が他の国では定着しているが、日本ではそうなっていない。

-泉さんのつぶやき、個人としては共感することが多いが、国家運営となると、ちょっと別の面も考える必要がある。例えば、GDPとQOLの関係だが、QOLを高めるために、GDPを上げる必要もある。日本は今、一人当たりGDPが21位ぐらいだ。これをもっと高めることにより、QOLも高まる。政治家の劣化は 同感だ。このためには、教育でノーブレスオブリージを教え、日本の将来を考えることを教える必要がある。スイスには、そのような教育があった。さらに、これだけの政治家が必要か、という問題など課題は多い。「日本の良さ」はたくさんあったが、明治以降の近代化、さらには、敗戦後に相当失われている。三島が数々の作品で取り上げたように、こういう失われた価値は何か、しっかり考えていく必要がある。

-(泉)さっき、森本さんから、一言でいうと、今後日本はどうあるべきかという問いかけがあった。自分は、「モアモアから適適」という考え方だ。量を追求するのではなく、質を目指すべきと考える。三適という考え方もある。量と質とタイミングを適切に行うというものだ。さっき人生三色計画が示されたが、正に人生のそれぞれのタイミングで適切な行為を行うことが望ましい。ノーブレスオブリージも大変大事だ。江戸や明治のリーダーは正にそのような形で社会をリードして行った。

-(塚本)今日は、皆さんから色々議論が出た。これからの日本をどう考えるかという点について、岩倉使節団は各国を隈なく観察して良いところを取り入れることに全力を尽くした。我々の今後の大きなテーマは、いかにして幸福な日本を作り上げるかだが、その一つのモデルがデンマークなどの北欧だ。波頭氏の「大きな物語」でも北欧モデルが取り上げられている。その意味で、もっと北欧モデルから何を学ぶか、議論して行きたい。

(文責 塚本 弘)

 

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