GJ研究会 – 令和日本のヴィジョン:「日本文化」

日時:2022年4月22日(金) 午前10時から12時30分
場所:zoom
参加者:11人
テーマ:日本文化

議事要旨
3人から報告があり、その後議論を行った。

(小野)
3つの点を指摘したい。
(1) 文化には優劣がない。以前は、ヨーロッパが優れているという社会進化論もあったが、今は、フランツ ボアズが提唱した文化相対主義が認められている。
(2) 多様性の尊重が大事。アイヌや沖縄の文化は虐げられてきた(アイヌ、沖縄の哀しみ)。黒人文化も押し殺されてきた。南アのカフィール族の部族会議では、満場一致になるまで議論が続けられ、首長に向かって遠慮なく厳しい批判が飛び交い、首長は聞き役に徹する。少数意見が多数意見に押しつぶされることはなかった。後の大統領のマンデラはカフィール族の出身。鳥のシジュウカラにも精神文化があるという京大の研究もある。
(3) 多田富雄氏によると、日本文化の特徴は、4つ。(ア)自然崇拝と自然信仰のアニミズム文化(イ)豊かな象徴力。俳句、和歌など。(ウ)あわれの美学(エ)それらすべてを包み込む「匠の技」。その中で、「道の文化」と「気の文化」が育まれてきた。日本文化の特質は、優れたものを取り入れて日本化することだ。(漢字からひらがな、律令から17条の憲法、明治でも近代文明を取り入れ、殖産興業、立憲政体)。西欧でも当初は、中国に魅かれてシノワズリ(中国趣味)が流行したが、その後ジャポニズムが拡がり、絵画などに大きな影響を与えた。最近では、クールジャパンとして、アニメなどが海外でもてはやされている。日本の権力構造は、権威と権力が分離し、中空構造になっていることで安定性が保たれた。これからは、日本の和の文明(憲法第9条)を世界に広げることが重要だ。江戸時代の浪速の知の巨人木村蒹葭堂(造酒家)は、文人画家、本草学者、煎茶、篆刻、国学、医学、オランダ語、ラテン語などを修め、多くの知識人と交流。フランスでは、国家が文化を尊重している。2020年2月に亡くなったジャーナリスト ジャン ダニエルに対し、マクロン大統領は、「反対者と対話し、自分と見解の違う者にインクと紙を与え、イスラエルを批判、アルジェリアの独立を支持し、良心の人、真の人生を生き、知的・道徳的羅針盤となった」と18分に及ぶ追悼文を捧げた。

(栗明)
日本文化のキーワードは、「万葉集」「神道は祭典の古俗」「万機公論に決すべし」の3つだ。万葉集の4500首の中で、一番好きな歌は、志貴皇子の「石激垂見之上乃左和良妣乃毛要出春爾」だ。「石走る 垂水の上の さわらびの 萌え出ずる春に なりにけるかも」。ところで、大正時代に刊行された「全国神職会会報」(全52巻)を某出版社が近年復刻したところ、一番最初の注文主は米国の議会図書館だった。出版社は驚いたそうだが、別に不思議ではない。外国人にとって、最も理解しにくいのが、神道だ。教祖や経典がないからだ。日本人の特性は、あらゆる自然に畏敬の念(神性)を抱く点だ。朝日新聞に28年間連載された「折々の歌」(大岡信)は、外国人から、数百万人の詩人の国だと、驚異を持って見られている。外国人と日本人の違いを挙げると、ラフカデイオ・ハーンは松江の人が朝日に柏手を打って拝んでいるのに驚いた。天才数学者の岡潔は外国人に俳句を教えようとしたが、「鎌倉に鳩が三羽おりました」という句に呆れた。虫の音は、日本人には安らぎだが、外国人には騒音。これまで、外国からのいくつかの衝撃があった。大陸文化からの衝撃には、「和魂漢才」として、漢字には仮名、仏教の伝来には、神仏習合で対応し、白村江の敗北には、律令制を導入し、国家体制を整備した。ただし、宦官や纏足は取り入れなかった。黒船来航には、「和魂洋才」で、先進の知識・技術を導入し、西欧概念を翻訳した。日本には、客観的・合理的思考の伝統があり、例えば、日本書紀には異説が列記(イザナギ イザナミについては11の説が記載)されており、江戸時代には和算が発展し、ノーベル賞、フィールズ賞の受賞者が多いのも、こうした伝統に負っている。日本文化は、「選択的柔軟な受容、変容させつつ受容」を行ってきた。唯一絶対神は日本人の基本的心性になじまずと拒否した。「万機公論に決すべし」ということで、和をもって尊しということで、独断を忌避し、八百万の神の話し合いの精神でやってきた。日本にプーチンはいない。織田信長は例外中の例外。
今後の日本は、受難が続くのではないか。IT革命の真只中で西洋の強さが目立つ。キリスト教のバックボーンを踏まえて、強いリーダーシップの下、迅速、効率的な判断。日本の弱さはバックボーンなきままで、異者との競争に臨まなければならない点だ。日本の強みは、継続-断絶のなさ、異者との話し合い、相違を折衷し融合していく文化。こういう考えは一神教には受け容れにくい。日本の復活がなるか、時間が必要。最後に、異者と遭遇してのわが短歌を紹介したい。

拒むごと我を圧する摩天楼幾たびか来て今日の違和感
冬の陽をきららに返す銀(しろがね)のハドソン見つつニュースを拾う
あとひと日あれよと祈る花の日を終日たたく春の嵐は

(泉)
現在では、文明と文化の二分論が常だが、福沢諭吉は、「文明とは、衣食を豊かにし、心を高尚にするものなり」とし、西郷隆盛は「文明とは道の普く行われるを讃称せる言にして、客室の荘厳、衣服の美麗、外観の浮華をいうにはあらず」としており、両者とも文明の精神性を重視している。久米邦武の文明観は、「麗都」パリに「文明都雅の尖端」を観じ、「まるで天国のようだ」と感嘆し、美しい景観、喫茶飲酒割烹店、いたるところにあり、「生きる愉悦」を感得する。伊藤博文は、大隈重信が企画編集した「開国五十年史」で、文明観を述べている。すなわち、西洋文明の外形的な繁華に驚きながらも、「和魂」の保守を考究し、そのコアを新渡戸稲造の「武士道」に見出して、それが庶民にまで浸透した江戸時代の教育に感じ入り、「仁、義、礼」などの「徳目」を軸とした日本文明を目指すべきという。

最近の議論をいくつか紹介したい。波頭亮氏は「日本経済はすでに成熟フェイズにあり、これから目指すべきは、文化、芸術、文芸、芸術、遊び、交流にある、AIも使いこなした理想郷を作りたい」とする。原研哉氏は「爛熟経済の後は、日本人伝来の「繊細、丁寧、緻密、簡潔」の美意識を貴重な文化資源としてフルに活用し、日本をデザイン、「誇りと充足の道」を目指すべき」と唱道する。野中郁次郎氏は、「美徳、賢慮、美学観に基づき「今や量の時代はピークを過ぎ、質の時代に入った。これからは、何が善いかか、何が美しいかを追求すべき、企業も国も「美徳」の経営を目指すべきである」と首唱する。

自分は、「適欲循環スマート文明」を訴えたい。地球、国家、個人が曼荼羅のように織りなしあって、貪欲収奪過剰文明から、適欲循環スマート文明を目指すべきと主張したい。2016年のシンポジウムでも紹介した「美味し国 ニッポン列島」のビジョンを再度披露してプレゼンを終える。「大国でも小国でもなく、中位、中道、中和の国として、平和を希求し世界のハーモナイザーに徹しようではないか そんな地球時代のモデルになるようなオンリーワンの「美味し国を目指してはどうか 夢と目標さえ持てば、日本人は凄い力を発揮する幕末も戦後も日本人は大革新を遂げたではないか 明治創業の精神を甦らせて「新しい日本像」を創り出そうではないか」(一部抜粋)

(塚本)
日本文化の優れた受容能力についての発言があったが、ハーバード大学では、「経済複雑性指標」を分析しており、それでは、日本は第一位。以下、スイス、韓国、ドイツ、シンガポール。こうした日本の良さに自信を持って、未来を語ることも重要だ。

その後、皆さんから次のような議論があった。
-日本文化への外国からの影響として、東北大学田中英道名誉教授のユダヤ人の日本への伝来について注目している。

-埴輪の形からもユダヤ人の影響を受けたとする説もある。ただ、日本書紀と旧約聖書には絶対的な違いがある。日本書紀は天地から神が生まれたとするが、旧約聖書は、初めに神ありきとする。

-順天堂大学があるが、日本の考えは、西洋のように、征天ではなく、順天。日本人のものの考え方は「草木国土悉皆成仏」。人間中心ではなく、自利と他利の調和を説く思想を梅原猛は「人類哲学序説」で説いた。

-東洋の精神文化と西洋の科学技術文明を融合させることができた日本こそ、世界に向けて、このような考え方をアピールすべきだ。

-漢字のひらかな読みの話があったが、元々日本語としての言葉はあった。

-サミュエル ハンチントンの「文明の衝突」では、日本に独自の文化はあったとしているが、孤立した箱庭文明としている。しかし、今後、重要なことは、閉鎖的ではなく、世界にどう発信するかだ。それには、英語で発信することが大事。大岡信や谷川俊太郎は詩で大賞をもらったし、「ドライブ マイ カー」もアカデミー国際長編映画賞を獲った。世界で発信できる若い人を育てることが大事だ。

-西洋人にも色々いて、オールコックなどは、相対的文明史観に立ち、江戸文化を評価していた。混浴なども一つの文化として認めていた。シュリーマンも清潔で美しい国と高く評価している。アイヌとどう向き合うかという点で、北海道の名づけ親の松浦武四郎は、アイヌの人々の一人一人の名前をちゃんと覚えたそうだ。明治になり、政府のやり方に失望して、引退したようだ。

-島国で、災害も多い日本は、自然を克服しえないことをよく分かっている。また、量から質への転換の必要性は、日本企業はよく分かっている。バブルの崩壊後、多品種少量生産でやって来た。多くの企業は、経済複雑性にチャレンジしてきた。ユニクロの機能性繊維などはその一例。今後の課題は、デジタル化、IT化が進む中で、プラットフォームの上で、どう日本文化を作り上げていくことではなかろうか。

-日本の文明をどう世界に向けて発信していくかは難しい。世界宗教会議もあるが、日本の代表は仏教が中心。鈴木大拙のような人物が現れない。これから世界にアピールできる人物をどう育てるか?

-今や英語は世界語。残念なことに、以前は海外に憧れる若者が多かったが、今は留学生が減っている。それでもまだGDPは世界第3位。どう若者を世界に向かわせるかが大事だ。

-先日茂木健一郎氏と会った。「ikigai 」という英語の本を出版するようだ。日本の詩歌を理解しているピーターマクミラン氏の話も聞いてみたい。先月、財政の問題を議論したが、先日財務省の矢野次官の話を聞いた。節度のない支出を批判し、政治家が惰性で仕事をしていると外国に買い取られると述べておられた。

(文責 塚本 弘)

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