GJ研究会 – 令和日本のヴィジョン:「外交問題」

日時 2022年5月27日(金)10時から13時
場所 zoom
参加者 19人
テーマ 外交問題
議事要旨
3人から報告があり、その後議論を行った。

(佐野)
先ず、本日の報告は、個人としての見解であり、自分の属した組織の意見ではないことをお断りしておく。第一次世界大戦後のベルサイユ講和会議に参加した日本代表団(西園寺公望、牧野伸顕全権)は、発言が少なく、日本は、サイレンス パートナーと呼ばれた。ただ、実質的には、相当の成果を得ており、必ずしも失敗した訳ではない。外交では、「沈黙は金」は通用しない。今では、国益のため、どんどん積極的に発言することが奨励されている。これまでの国際社会と日本外交の変遷を振り返ると、基本的には、日米安保を核として、軽武装、経済重視でやって来た。独自外交の萌芽は、先ず、石油ショックのときだ。アラブ諸国への外交の重要性を村田良平氏(当時中近東アフリカ局長)らが主導した。第二の転機は、湾岸戦争だ。その後、日本が経済大国となり、90年代には、日米グローバルパートナーシップを打ち出すが、この頃から、バブルが崩壊し、国力低下が始まった。現在は、「大国間競争の時代」だ。特に、台頭する中国とどう付き合うか。アメリカの政治学者グレアム アリソンは、その著書「Destined for war 」で、覇権国家と新興国が戦争を回避するのは容易ではない(ツキデイデスの罠)と述べている。過去の16の事例のうち、回避は4件のみ。習近平は、2021年の歴史決議で、「中華民族の偉大なる復興」を目指している。「2つの百年」のうち、中国共産党創設100年の2021年には「小康社会」を達成し、中共建国100年の2049年には、「社会主義現代化強国」の実現を目指している。核心的利益として、香港、台湾、ウィグル、チベット、南シナ海、東シナ海を位置付けている。南シナ海の中国の領有権を認めずとする国際仲裁裁判所の判決を否定し、紙屑と称している。西側は、中国が発展すれば、民主化、人権尊重の方向に向かうと「読み違い」をした。オバマ政権末期から、方向を改め、知財、技術移転の強制、国営企業への過剰補助金などを問題とし、高関税、輸出管理などを行っており、経済安全保障(エコノミックステイトクラフト、サプライチェーン、革新技術、民間技術の軍事転用の防止、宇宙・サイバー・電磁波)を徹底している。さらに、台湾関係法による武器の供与、要路・議員の訪問も進めている。

ウクライナ侵攻により、顕在化した東アジアの危機にどう対処するか。ウクライナの抑止の失敗から何を学ぶか。残念ながら、アメリカが(第三次世界大戦を避けるため)ウクライナに出ないと言ったことや、クリミヤ侵攻への制裁が微温的であったことなどが、ウクライナ侵攻の誘因の一つであった可能性はある。アジア太平洋における西側の安全保障は、今回のバイデン大統領訪日の際開催されたクワッドや、米英豪による安全保障協定AUKUSにより、強化されつつある。

最後に核抑止の重要性と「核兵器禁止条約」について、触れたい。先ず、唯一の被爆国として、核兵器が使われることのない世界にしなければならないことは、当然である。それなら、「核兵器禁止条約」に賛成してもいいのではないかという意見があるかもしれないが、「核兵器禁止条約」は、「核抑止」を禁止するものであるので、現在核兵器を保有する国や核の傘にいる国は、加盟していない。日本もこれに加盟すると、アメリカによる核の傘を否定することになるので、加盟していない。また、核兵器の不拡散に関する条約(NPT条約)の再検討会議(5年に一度で、2020年の予定だったが、コロナのため、延期)が今年8月に開かれる予定であり、世界の核不拡散が進むよう、日本も貢献すべきである。日本が、核武装をすべきではないかという意見もあるが、自分は反対である。核兵器を保有しているのは、安保常任理事国5カ国の他、インド、パキスタン、さらに疑わしいのが、イスラエル、北朝鮮、イランなどだが、もし、日本が保有するとなると、ポテンシャルのある国がどんどん保有する可能性があり、「核のカオス」を招くおそれがある。国内政治でも、例えば、どこの基地に核兵器を置くかということになると、地元で大変な騒ぎになるだろう。艦船に搭載するとしても、寄港地をどこにするかが大問題になるだろう。ということで、日本の核保有は論外だ。米ソの間では、核兵器削減交渉が進んだが、今後、米中の間で核軍備管理交渉が進むことが望ましい。こうした交渉を通じ、核兵器を削減するとともに、両国間の信頼醸成を高めることが必須である。

(井出)
外交を論ずる前に、現代経済社会の課題を考えたい。ベルリンの壁崩壊後、市場経済システムが広く行き渡るとの楽観論が広がったが、実際はリーマンショックが発生し、ピケティの指摘するように格差が拡大し、地球環境問題が深刻化し、コロナが拡がり、さらには、ウクライナ問題で国連を中心とした安全保障システムの不備も明らかになった。
成長至上主義に対し、「沈黙の春」、ローマクラブによる「成長の限界」などが出され、1992年のリオでの国連環境開発会議を行われ、2030年を目指した国連SDGsも打出されている。大事なことは、こうしたことをいかに実行するかだ。ICTやAIも進展しているが、これらの技術を使いこなし、負の側面を除去しつつ、市場経済システムの永続性をいかに高めるかの知恵が試される。

世界は、米国一極から、米中2強体制に移行している。こうした中で、中国をどうとらえるか、どう共存するか、考えたい。日本の対中好感度は10%を割っているが、中国を排除するのではなく、例えば、習近平氏がいう「人類運命共同体」というのは、具体的に何を目指しており、言っていることと、実際にやっていることとが違うのではないかなど、首脳レベルでの対話が望ましい。これまでの歴史を振り返ると、朝河貫一の「日本の禍機」の警告の意味を理解せず、孫文は、「日本は欧米帝国主義の走狗となるのか、アジアの王道を開く先駆者となるのか」と述べ、日本を去った。これまで日中友好の井戸を掘った数々の人々を回顧しつつ、日中間で、環境や格差是正、SDGsなどについて、協力が進むことを期待したい。古代において、孔子は、「楚の共王が弓を忘れ、家来がこれを探そうと進言した時、楚の人が忘れ楚の人がこれを使う。探す必要はない」と言ったことを聴き、「共王は度量が狭い、何故楚に限るのか、人弓を忘れ、人これを使うと言わないのか」と評し、国を越えた人間に及ぶ思想を述べた。宮沢賢治は、「世界全体が幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」と言った。今、日本社会は第三の開国に直面している。夏目漱石は明治社会の脆弱性を強く懸念し、「日本は滅びるね」と広田先生に言わせている。1999年ダボス会議に参加した際、香港の実業家から、バブル崩壊後の日本の対応、無策を批判する一方、明治維新を断行した日本を忘れてはいけないとの発言があった。岸田総理の新しい資本主義、内容と実効性がよく分からない。最後に、歴史家E・H・カーは、「歴史とは、過去と現在の絶え間ない対話である」と述べているが、これに加え、「歴史とは、過去と現在の対話であり、また、未来への展望である」と考える。

(泉)
明治創業世代の外交、軍事について述べたい。徳川時代に、薩英戦争、下関戦争を経験し、薩摩、長州は西欧列強の軍事力の強さを実感した。明治に入り、キリスト教徒の弾圧に対し、各国から、厳しい抗議もあった。通貨についても、偽札の流通などで、大隈重信を中心に対応に苦慮した。大村益次郎の示唆もあり、明治2年に山縣有朋と西郷従道は約1年間欧州の軍制視察をした。このように、岩倉使節団以前にも外交と軍事を巡る様々な動きがあった。岩倉使節団では、米国の歓迎ぶりに気を良くして、当初は予備交渉のつもりだったが、条約交渉に臨んで、大失敗をした。しかし、これも外交交渉の難しさを知る良い経験だった。英国では、当時の最新技術を隈なく視察した。フランスでは、モン・ヴァレリアンの要塞やヴァンセーヌ城を訪問し、武器庫では、普仏戦争に中立を宣言していた米国の武器があるのを見つけた。久米は「西洋各国の交際礼は、陽に親睦を表するも、陰は常に權危相猜す、いったん不虞あるに臨めば、局外中立の義を立てるも、またただ陽面のみ」とし、クリミアのセバストーポリの戦いにも言及し、「英仏合従するというも、実は仏その中におり、陽は英に結び、陰はロシアを援けたり」と述べている。デンマーク、オランダなどの小国は、ハリネズミのように毛を逆立てて国を守るしかないとしている。ドイツではビスマルクに会い、「各国は親睦礼儀をもって交わっているように見えるが、それはまったく表面上のことで、内面では強弱相凌ぎ、大小侮るというのが実情であり、万国公法も大国は利のあるうちはこれを守るが、いったん不利となれば、武力を行使する」と言われ、国際社会では、法律のみを信じるわけにはいかず、軍事力あってこその万国公法であると痛感する。帰国の際には、各国の植民地支配の実情を知る。カルカッタでは、船にアヘンが積み込まれ、英国がその利益を得ていることに「あに文明の本意ならんや」と憤慨している。岩倉使節団の旅は、高坂正堯氏の言う通り、大合宿研修旅行であった。ニューヨークタイムズは「この使節団は日本の支配階級が自ら西洋文明を学ぼうとするものであり、日本において最も優れた能力と影響力をもつ人々である」と報じ、ロンドンタイムズは「先進諸国によって享受されている、最高の文明の果実を手に入れようと目論んでいる」とし、フランスの絵入り新聞イリュストラシオンは「この使節団の派遣は一連の日本の改革の前奏曲といえるだろう」としている。確かに、使節団は現場を見て、要人たちに会った。兵器工場では、その立派さに驚き、褒めたところ「人の血を流す凶器に過ぎず、何で文明世界にあるべきものと言えようか、自分はこれを恥じる」との答えが返ってきた。久米は、「世界の真形を暸知し、的実に深察すべし」と述べ、上っ面だけでなく、本当の姿を見て、的確に、しかも、深く理解することの重要さを説いている。

その後、皆さんから、次のような議論があった。

-クラウゼヴィッツと孫子の話があったが、ヨーロッパは絶対主義、東洋は相対主義。宗教戦争等が起きるのは、相対主義的な考え方がないからだ。近代の西洋優位主義は行き詰まっているのではないか。これからの時代は、東洋の思想が重要だと考える。兵馬俑を見たクリントン大統領は、アメリカの歴史は中国の一王朝にも及ばないと語った。

-本件、どちらが善、どちらが悪との二者択一の問題ではない。別の機会に議論したい。

-クラウゼヴィッツについて、評価する人が多いが、リデルハートは、それほど認めていない。

-米中関係については、突然中国との国交回復を打ち出したニクソンショックのようなこともあった。習近平とバイデン、今後どうやって行くのか。アメリカの銃の野放しも問題だ。

-習近平は、異質な指導者ではないか。

-中国との対話の必要性は同感だが、強くなるにつれて目線を上げているので、どんどん対話が難しくなっている。しかし、こちらがへり下ると、逆効果だ。

-昔の政治家は古典を読んでいた。例えば、孟子は「民をもって貴(とおと)しと為し、社稷は之に次ぎ、君を軽しと為す」と述べていると、中国共産党にこうした古典を用いるといいかも。

-日本人は良識を持つが、今の中国共産党は孔子、孟子もプロパガンダに使っている。

-日本の教育でも、もっとリベラルアーツに力を入れるべきだ。ダボス会議の話があったが、英語での発信ができる人がもっと出てほしい。軍縮で、中満泉さんが活躍しているが、国際機関で働く人も増えてほしい。

-中国の核兵器の抑制をすべきだ。

-バイデン大統領は、今後、戦術核も対象にした核削減と中国も入った核削減交渉の2点を重視すると述べている。今後、サイバーや宇宙空間の平和利用も重要。

-台湾有事を危惧している。また、日本が核兵器禁止条約に入らないのは、おかしい。

-バイデン大統領は何回も台湾有事の際は武力で介入と言っている。そのつど、後で、否定はされているが、あれだけ何回も言えば、本当にそう考えていると受け止められるだろう。核兵器禁止条約には、86ヵ国が署名し、61ヵ国が批准(2022年5月17日時点)しているが、日本は、核抑止を否定し、日米安保と相容れないので、この条約には加盟していない。

-核の相互確証破壊の理論があるが、例えば、東京がやられてしまった場合、本当にアメリカが報復してくれるのかという問題や、イスラエル、インド、パキスタンなどに拡散した核について、抑止力がどの程度効くのかという問題もある。キッシンジャーやシュルツなどは、核のない世界の提言をしている。

-賢人による提言はいくつも出ている。世界には13000発ぐらいの核があり、これを削減することが大事だ。

-実際にどう抑止するかを考えるとなかなか難しい。例えば、北朝鮮を考えると、どんなときに核を使うかというと、体制が壊れるときに、使用される可能性が高い。テロリストの抑止力が効かないのと同じだ。これを防ぐのは、外交しかない。軍備管理交渉も重要だ。その際には、相手方がやりたがっているところから攻めるのがよい。

-今のウクライナについても、ロシアの立場に立って考えることも大事だ。NATOがどんどん拡大して、押し込まれたような中で、起こった面がある。

-ロシアの世論調査では、ソ連の崩壊について、6割の国民が残念と思っている。52%の国民がソ連の復活を望んでいる。政治家は、こうした国民感情をある程度踏まえて対応せざるを得ない面がある。

-NATOの拡大が、ロシアにとって、嬉しくないのは分かるが、それぞれの国民が決める問題でもある。

-中国との付き合いだが、警察と軍の他に国内治安対応の武装警察がおり、ロシアにも軍、警察以外に国内治安対応の内務省軍(国家親衛軍)がいる。こうした権威主義国家とどう付き合うかの覚悟が必要。外交、抑止力、経済を重層的に展開していくことが大事だ。中国と日本の関係については、色々の意見が出たが、敵対的ではなく、共存で行くべきで、抑止のみならず、外交の梃子も効かすべきだ。今の中国が話を聞くように、どううまくやるのか、米国との関係を含めての課題と認識した。

-今、日本は有事の玄関口にいるかもしれない。ウクライナへの侵攻を機に日本の戦力増強、中国への対応などについて、タブーなき議論が進むことを期待したい。

-岩倉使節団の人々が今の世界を見たら、どう考えるか。科学技術、情報なども含め、日本のあり方を考えていきたい。

(文責 塚本 弘)

 

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