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米欧回覧実記とは

かつて岩波書店が「私の愛読する一冊の本」という文庫読者のアンケートをとったことがありますが、そこで最も多かったのが「米欧回覧実記」でした。

この本は、実に632日にわたった岩倉使節団の大旅行の精細な記録で、随員の一人久米邦武が編纂したものです。それは、西洋文明を丸ごと見たエンサイクロペデイア的なレポートで、1870年代の世界を輪切りにして見せてくれます。

ただ、全五巻、2200ページにわたる大部なものであり、漢字とカタカナばかりの本ですからちょっととりつきにくいのです。でも、内容は多彩豊富で個人的なコメントも随所にあり、当時の風景や建物などの銅版画も300枚余入っており、また格調高くリズムのある文章ですから、慣れてくるといつまでも読んでいたくなるような本です。

原典は、今、岩波書店から出版されていますから手軽に入手できます。そして近年「現代語訳・米欧回覧実記」も英文版「米欧回覧実記」も出版されましたから、今ではお好みの言葉で読み始めることができます。

とりわけ旅好きの人、地理や歴史に興味のある人、文化や文明に関心のある人にはこたえられない本です。どこかページを開いて、興味のあるところから読み始めてください。たとえばパリから、たとえばニューヨークから、どこから読み出しても面白く、なんど読んでもまた面白い、まことに本書は、日本人の誇るべき歴史的名著であり、「汲めどもつきぬ泉」なのです。

主な訪問都市

米国:サンフランシスコ・ソルトレークシティ・シカゴ・ワシントン・フィラデルフィア・ニューヨーク・ボストン

英国:ロンドン・リバプール・マンチェスター・グラスゴー・エジンバラ・ニューカッスル・シェフィールド・バーミンガム・チェスター

欧州:パリ・ブラッセル・ハーグ・エッセン・ベルリン・サンクトペテルスブルグ・コペンハーゲン・ストックフォルム・ハンブルグ・フランクフルト・ミュンヘン・ローマ・ナポリ・ヴェネチア・ウイーン・ベルン・ルツェルン・ジュネーブ・リヨン・マルセーユ
寄港地:ポートサイド・アデン・ゴール・シンガポール・サイゴン・香港・上海

参考リンク

「米欧回覧実記とは」への1件のフィードバック

  1. この本は、不平等条約改正交渉などの正式報告書ではありません。
    不平等条約改正交渉などについては「書かないことにする」というルールがあったのです。そのことは『米欧回覧実記』の編修の趣旨を久米邦武が「例言」(岩波文庫『米欧回覧実記』pp.8-9)に次のように書いています。抜粋しますと
    「本編ハ大使公務ノ余、及ヒ各地回歴ノ途上ニ於テ総テ観覧セル実況ヲ記ス」といい、さらに「使節ノ本領タル、交際ノ応酬、政治ノ廉訪ハ、反テ之ヲ略ス、別ニ詳細ノ書アレハナリ」

    この内容はフルベッキによって書かれた「大使一行ノ回歴シタル顛末ヲ著述スル法」に準拠しています。
    その「大使一行ノ回歴シタル顛末ヲ著述スル法」については『日本近代思想大系1 開国』岩波書店1991年 校注者田中彰 p.371~374にあります。

    また、「別ニ詳細ノ書」とは、岩波文庫『特命全権大使 米欧回覧実記』(一)p.410に田中彰が書いています。また、そこで田中彰は、次のように解説しています。「だから、その点では『米欧回覧実記』は、岩倉使節団の政治や外交、あるいは視察・調査などの公式の報告書ではない」と。

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