78号 世の中で一番大事なこと

福沢諭吉に「心訓」という7箇条からなる教えがある。

世の中で一番楽しく立派なことは、一生涯を貫く仕事をもつことです。
世の中で一番みじめなことは、人間として教養のないことです。
世の中で一番さびしいことは、する仕事がないことです。
世の中で一番みにくいことは、他人の生活をうらやむことです。
世の中で一番尊いことは、人のために奉仕し決して恩にきせないことです。
世の中で一番美しいことは、全てのものに愛情をもつことです。
世の中で一番悲しいことはうそをつくことです。

さすが福沢先生である、的を射て簡潔で心にひびく。
ところが、先生の晩年(脳溢血で倒れたあと)、慶應義塾では高弟らが7人ばかり集まって先生の言葉を「修身要領」と名付けて編纂した。「先生の閲覧を経て」とはあるが、なんと29箇条もあり表現も冗長でぼやけてしまった。

近日、それとは対照的に短い、偉大なるおふくろさんの子供たちにさせた「5つの約束」を知った。

  1. うそをつくな。約束は必ず守れ。
  2. ズルイこと、卑怯未練なことはするな。負けてもいいから正々堂々と戦え。
  3. 人生の価値は立身出世・成功・栄華ではなく、どれくらい人さまに奉仕し、何人かを幸せにしたかだ。貧乏は恥ではない。
  4. 無愛想、不機嫌な顔を人に見せてはいけない。不機嫌は人間の悪徳の最たるもの。
  5. 他人様のお世話になったら、かならずお礼をいうこと、すること。

高橋宏氏(本会会員)の新著「喧嘩の作法」(講談社)から引用させていただいたものである。越後新発田の旅館の娘であったというご母堂は、これを息子に刷り込んで、アメリカ政府と4つに組んで「堂々と喧嘩した」偉丈夫、豪気で温情溢れる快男児を育てたのだ。

世の中で一番大事なことは10指にも満たない平易な言葉の中にある、と改めて思うのである。

コメントを残す