74 「西洋は行き詰まる文明なり」 久米邦武・晩年の洞察

 久米は「米欧回覧実記」で、西洋の科学技術文明を礼賛したが、一方で自由や利を重んじる個人主義文明に違和感を抱いた。米国の政治を見て「衆愚政治」の陥穽を察知し、欧州の経済をみて「道義」より「利益」を上位におく「町人国家」と評した。

久米は帰国後、歴史学者の道を歩いたが、93才まで生きて西洋文明の半世紀を観察し、晩年、次のように述べている(「易堂先生小伝」より)。

「西洋人は物に執着して時に意外な発明をなすも、又その発明に執着して自縄自縛せらる。例えば、火器は亜細亜人の発明なるも、西域より欧州に伝え、西洋人の研究心を刺激して鉄砲となり、而して之を以て全世界を威嚇して暴利を収めたるも、暴利の争奪より同志討ちを始め、欧州大戦争となりて遂に自爆す。」

久米は70歳代後半、第一次世界大戦の空爆などによる惨劇を目の当たりにし、文明興亡についてもこう書いた。「今や、軍備縮小を唱えて窮極を自白す。蒸気も電気も畢竟窮極する時あらん。明治五年吾人洋行の際は、欧州文明の破蕾の期にして、英人の眼中又世界なし。然るに、吾人の生存中に,已に英人の衰兆を見る。その間、僅かに5、60年に過ぎず、余りに果敢なき盛衰ならずや。東洋流は順天を説き、貧乏に平均す。西洋流は克天を説き、富豪を生ずるも、一方失業者に悩む」と。

今日、西洋文明は驚異の発明を続けて自縄自縛せられ、西洋流の克天主義はグローバルに展開して資源を収奪し環境を汚染し、利の争奪戦を競い合って、結果、物は溢れ情報は洪水の如く、貧富の格差は激化し、贅沢を貪る少数のスーパーリッチを生む一方で、膨大な数の貧者と失業者を生んでいる。

今、久米を甦らせれば何とのたまうか。なお「文明」といい「進歩」というか。「利便か、道義か」、そのいずれを上位に置くのか、と。

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