迷走する日本、いま、その日本で一番求められているものは何か。
日本の長期的なヴィジョンであり、その基本になる思想であり、その実現のための具体的な政策ではないのか。しかし、自民党も民主党も明確な哲学やヴィジョンを示していない。あるのは当面の「景気対策」であり、対症療法的な短期的政策のみで、長期的な見通しや政策は残念ながら見あたらない。これでは、総選挙をやっても、とりわけ若い世代に投票したい党がないといわれても仕方がない。日本人を納得させ奮い立たせるようなヴィジョンはないのか。それがないのが日本の不幸である。
現在の世界的な大変化は「100年に1度」というけれど、日本にとっては「150年に1度」の文明的スケールの大変化だと思う。それはつまり、幕末維新以降日本が追いかけてきた西洋的近代化路線の変更を余儀なくされる大地殻変動だからという意味である。
となれば、私たちは今こそ、明治維新の時点まで戻り、「西洋的近代化」の原点に還ってゼロから考え直さなければならない。そこにあるのは、維新をやり遂げてきた先人たちの「気概」と「思想」である。佐久間象山、横井小楠、坂本龍馬、西郷隆盛、福沢諭吉らの言葉をもう一度噛みしめてみよう。
佐久間は「東洋の道徳・西洋の芸術」といい、横井は「道義国家」を唱え、龍馬は「通商国家」を、西郷は「敬天愛人」を、福沢は「独立自尊」を掲げた。
久米邦武も「米欧回覧実記」の中で、政治の目的についてこう述べている。
「政治ノ務ムヘキハ、国中ノ人民、ミナ生業ニ勉励シ、自主ヲ遂ケ、交際ニ礼アリ、信アリテ、百需ノ利ヲ開キ、外ハ国威ヲ屈セス、内ハ国安ヲ保シ、太平ノ境ニ進ムコソ務ムヘキ本領ナリ」
政治は何をしなければならないか、この簡潔な文章はそれを明快に提示している。いまこそ我々は「明治創業の精神」に学びなおすべきだと思う。