53 新時代の幕開け、オバマ大統領の誕生

岩倉使節団がワシントンを訪れた1872年、黒人はどんな状況にあったのか。久米邦武は『実記』で南北戦争によってはじめて黒人が人権を認められたが、なお白黒の差別は厳しく、黒人は一般に教育もなく愚民扱いされていることを指摘している。
「黒奴始メテ人間ニ出タレトモ、交際モナク、丁字モナキ愚民ナレハ、白人ハ共ニ歯スルヲセス、猶白黒ノ涇渭ハ判然ナリ」である。そしてこう続く・・・

「但し、中ニハ早ク自主セル黒人モアリ、現ニ下院ニ選挙サレタル人傑モアリ、又巨万ヲ累ネタル豪姓モアリ、皮膚ノ色ハ知識ニ管係ナキコトモ亦明ケシ、故ニ有志ノ人、教育ニ力ヲ尽シ、因テ学校ノ設ケアル所ナリ、顧フニ十余年ノ星霜ヲ経ハ、黒人ニテモ英才輩出シ、白人ノ不学ナルモノハ、役ヲ取ルニ至ラン」
久米の慧眼はその本質を衝いている。

以来、130数年、遂にハーフとはいえ黒人出身のバラク・オバマが、アメリカ合衆国大統領に選出されたのだ。まさに歴史的な事件と言っていい。そしてこのことは3つの点で刮目に値すると思う。一つはそのキャッチコピーである。Change、We can, You can, Yes we can.である。わかりやすく、相手を巻きこむ力がある。二つにはインターネットの活用である。それは1960年におけるケネデイの勝利がテレビの活用に依ったこととも相通じるもので、草の根民主主義の新しいありかたを示したものといえるからだ。そして三つ目はオバマが尊敬する人物としてキング牧師と並びマハトマ・ガンジーを挙げていることだ。それがアジア的な平和思想を理解することとすれば、そのグローバルな広がりは地球を救う可能性がある。これまでの白人大統領にはなかったことである。よき社会への一歩がオバマの出現で着実にすすむことを切に期待したい。

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