「我日本ニ於テ此典ヲ挙行セラシコトハ、実ニ曠世ノ一事ニテ、乃方今ノ時宜ハ、異常ノ運ニ際会セルコトヲ顧ルヘシ」 使節団の派遣について、久米邦武は「米欧回覧実記」の「例言」でこう書いた。 「明治中興ノ政ハ、古今未曾有ノ変革ニシテ、其ノ大要ハ三ッニ帰ス、将門ノ権ヲ収メテ、天皇ノ親裁二復ス、一ナリ、各藩ノ分治ヲ併セテ、一統ノ政治トナス、二ナリ、鎖国ノ政ヲ改メテ、開国ノ規模ヲ定ム、三ナリ」
つまり明治維新の大要として、開国、大政復古、廃藩置県の3つを挙げている。
そしてその一つでも容易ならざる大改革なのに、それが三つ合わせて行われたことは、「人為」を越えほとんど「天為」だとし、それは取りもなおさず「世界気運ノ変」によって起こったものだと述べている。つまり、この世界情勢の大変化こそが、異常ともいえる大視察団の派遣を生んだのだというのだ。
思えば、現在の日本もそれに匹敵する「世界気運の変」に遭遇している。宇宙技術や電子技術、ⅠTやバイオをはじめとする驚くべき技術の進歩が時代を大きく変え、さまざまな面で大改革を必要としている。言い換えれば我々は今、全地球的、数百年単位の大変化に遭遇し、グローバリゼーションの大波にさらされているのであり、パラダイムの大変換を迫られているといってよい。われわれは、まずその現実を明確に認識し、新しい事態に如何に対応していくかを真摯に考えていかなくてはならない。
「岩倉使節団」と「米欧回覧実記」に親しんできたわれわれ学徒としては、一市民とはいえ10年に及ぶ実績を踏まえ、この際、「平成の岩倉使節団」の一員になったつもりで、志高く、2006年秋に予定される10周年記念の「グランド・シンポジウム」に臨みたいと思う。会員諸氏の格段のご尽力を期待する。