37 岩倉使節団資料館

 「米欧回覧実記」の現代語訳の出版について、過日、慶応義塾大学出版会をお訪ねした。応接室でまず目を惹いたのは、そこに飾ってあった昨年出版されたばかりの堂々たる「福沢諭吉著作集」全12巻であった。そして私は、来年4月ごろにはこの隣に、わが「米欧回覧実記」現代語訳の5巻本が並ぶことを想像した。福沢と久米は同時代を生き、同じような旅をし著作を残しながら、生涯一度も会うことはなかったのではないか。でも、平成の世になって、福沢と久米はこの場で出逢い、これからはあちこちの本棚で隣り合って過ごすことになるのだろうとも思った。

この2人は、最も早い時期に西洋文明をつぶさに見て歩き、貴重な見聞録を残した代表的日本人である。福沢は、「西洋事情」、「世界国尽」、「学問のすすめ」、「文明論之概略」などテーマ毎に口語体でわかりやすく書いたのに対し、久米は読み下し漢文調の日記体でエンサイクロペデイア的に書いた。そのため福沢の著作は当時だけでも数十万というベストセラーになり、極めて大きな影響を及ぼしたが、久米の著作はいろいろの面で地味でありまさに対照的であった。

今回、水沢周氏の3年に及ぶ尽力により「米欧回覧実記」のわかりやすく流麗な「現代語訳」がでることで、我々は幕末維新期の日本人の二大西洋見聞録を併せて読むことが可能になる。しかし、久米実記の「雑ニシテ統ナキ」状況は変わらない。そこで、より読みやすく、わかりやすくするために、適切な索引や資料があることが望ましい。実は「福沢諭吉著作集」にも、付録として「福沢諭吉資料館」なるCD‐ROMがついている。そこには、「年表」、「ことば」、「関連人物」、「旅」などが掲載されていて好都合である。

そこで、おのずから我々の仕事としての「岩倉使節団資料館」のアイデアが浮上してくる。当会でも、この際これまでの調査研究の成果と会員の知的パワーを結集して、そのようなものをつくるべきではないか。それはNPOとしての初仕事としても設立十周年記念の事業としても格好のものではないか、会員有志の積極的な意見と協力をお願いしたい。

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