映画「ラストサムライ」とテレビ「新選組」の影響で、サムライへの関心が若者の間にも高まりつつあるという。新渡戸稲造の「武士道」や李登輝の「武士道解題」がベストセラー入りしているのもその証左といえる。
その背景にあるものはいったい何か。一つは最近のリーダーにみる無責任、堕落、、倫理感の欠落に対する憤りであろう。そして二つ目には、特に若い世代における歴史認識の貧弱さがあり、それが失われたサムライの存在やその精神の再発見、再認識へとつながっているように思われる。
岩倉使節団もまさにサムライ集団であった。使命感にあふれたエリートたちであり、新生日本をどう築いていくかについて、真剣に回覧し、考え、議論し、命懸けで決断し、実行した。その真摯な態度がわれわれの心を打つ。久米の「実記」をひもとけば、そのサムライ・マインドこそがわれわれ読者の琴線をふるわす源にあることを感得するだろう。
この日本の文化遺産ともいうべきサムライ精神のコアは何か。それは第一に「道義」を考えることであろう。「私欲」に「道義」を優先させ、私でなく公のために生きることである。いざとなればそのために命も捧げる精神、それが士道であり、サムライの本質である。そして、それは人倫の基本として江戸時代、武士だけでなく町人や農民など一般の人々にまで浸透していったのである。
日本は近代化の過程で、西洋的な利益追求の考えを取り入れた。それが戦後とくに著しく、まっとうであるべき個人主義から、利己主義、自己中心主義へと堕落し、一般市民だけでなく指導層やエリート層にまで汚染が広がってしまった。岡崎久彦氏は明治憲政にサムライ・デモクラシーという言葉を当てておられるが、サムライ・マインドは、西洋でいうノーブレス・オブリジェに通じるものである。
当会としても若い世代へアプローチが重要課題になっている折から、NHK・TV「新選組」が放映されているこの時期、サムライ・マインドの再認識を促し、その精神を蘇生させる好機だと思われる。