30 世界を挙げて、己の国是に就かしめんとす

 最近、アメリカに関する2つの映画を見た。一つは最新作の「ギャング・オブ・ニューヨーク」、一つは懐かしい往年の名作「西部開拓史」である。いずれもアメリカという社会の本質を衝いているところがあって極めて興味深かった。移民、開拓者精神、自己責任、暴力、金、女性パワー、そしてキリスト教、そのいずれもがこの「荒っぽい国」誕生のキーファクターになっているという実感である。

久米邦武は、1870年代のアメリカをみて『実記』にこう書いた。

「米国ハ、欧州人民ノ開墾地ナリ、欧州ニテ自主ノ精神ニ逞シキ人、己カ不羈独立ノ智力ヲノベ、新ニ一大生業ヲ興サント志セハ、其游刃余リアル、米国ノ広土(今や、世界と宇宙の広土とも読める)ニ向ヒテ、開墾ヲ試ム」
さて、昨年秋、ニューヨークにおけるある会食の席で、大統領のブッシュを「ミスター単純」と評した人があった。世の中を単純に正と悪に分け、単純に自国を正義と思いこみ、単純にその正義のために戦う。そして世界もそれに従うのが当然と考える単純さである。

そこで久米のコメントがまた想起される。

「米国ノ民ハ、此政中(共和制)ニ化育セラレ、百年ニ垂レタレハ、三尺ノ童モ亦君主ヲ奉スルヲ恥ツ、習慣常ヲナシ、其弊ヲ知ラサルノミナラス、只其美ヲ愛シ、世界ヲ挙ケテ、己ノ国是ニ就シメントス、造次(とっさの間)ノ談ニモ、其感触ヲソナフ、到底其意想ノ移スヘカラサル、純平タル共和国ノ生霊ナリ」

物事にはすべて「一得一失」があるのに、自国のイデオロギーが正しいと信じて、世界を挙げてこれを広めようとする。いくら反論しても聞き入れようとしない。米国の弊に、衆愚政治、金権政治、そして単純さがある、と久米は指摘する。

こうしてみるとアメリカはその後130年経っても本質は余り変わっていないようだ。久米の『米欧回覧実記』が、いま見てもなお新しく示唆に富む所以である。

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