ベルリンの壁崩壊を機に、東欧社会とロシアが西欧の市場経済に流れこみヨーロッパに大変動が起きたことは記憶に新しい。当時、欧州に旅した私は犯罪の増加に困惑する声を聞いたが、より大きく根本的には低賃金労働の大津波こそが問題だった。
いま、太平洋沿岸地域とくに日本列島でそれに似た大変動が起きている。その重大な契機はむろん巨大中国の市場経済参入であり、その先鋭的な事例が諸犯罪の急増となり、より大きく根源的には低賃金労働の大津波となっている。12億という人口規模からいってもそのスケールと影響力の大きさは欧州を超えると覚悟せねばなるまい。
例えば犯罪の急増がある。中国の窃盗団が潜入し、ピッキング、カムまわし、サムターンなど新技術を次々に開発して、日本の住宅やマンションから金品を掠め盗る。強盗団はブルドーザーやトラックを動員して事務所や貴金属店を襲い、金庫まるごと店の在庫そっくり強奪する。その手口の周到にして大胆なことは日本人の発想を超えている。
そして、日本の10分の1とも20分の1ともいわれる低賃金労働が、各地の大工場や町工場を猛烈な勢いで吸引し中国に持ち去っていく。それはユニクロ現象にみられるような超低価格商品の大還流となり、日本列島を空洞化し日本人の雇用を奪っていく。ジェット機やインターネットなど交通通信機関の発達が東シナ海の壁を無力化させる。
それはかつての大航海時代や産業革命時代の大移民現象や大々的な植民地生産を連想させる。奴隷や移民、植民地での低賃金労働が、それまで高価な貴重品だった綿布や茶や諸々の商品を大量安価に供給したのだ。いま、日本を襲っているデフレ現象の背景には、この大中国の厖大な低価格労働力があることを銘記しなくてはならない。
「米欧回覧」の会は、「米欧」にしか関心がないのですか?という人がある。むろん、そうではない。その証拠に本機関紙の名称は当初より「米欧亜回覧」となっている。「亜」は亜細亜、亜羅武、亜弗利加を意味する。いまこそわれわれは、「亜亜亜回覧」にも注力して、「実記」にあるように「世界の真形を瞭知し的実に深察する」必要がある。