20 洞察力と脳力 -的実ニ深察スベシ-

 「米欧回覧実記」の例言にこうあります。「珍異目ニ充チ、奇聞耳ニ満チ、盛餐口ニ厭飫スルモ、神倦ミ筋疲ルルニ至リテハ・・・」、毎日毎晩、視察に奔走し、情報が豪雨のように降りしきる旅をしながら、久米邦武はその表層や断片の情報・知識に流されることなく、その背後にある西洋文明の原理原則をしっかりと洞察しました。おそらく久米は帰国後も様々な情報を集め、それを咀嚼し考え抜いたに違いありません。その類稀なる粘り強い知的営為が大著「米欧回覧実記」全五巻を生んだものと思われます。それを支えたものは何か、強烈な使命感であり、深い教養であり、明敏な洞察力であったでありましょう。その真摯な態度、妥協をゆるさぬ厳しさ、たゆまぬ努力には心底頭が下がる思いです。

18回例会での寺島実郎氏の講演「1900年への旅」は、同時に「2000年の米欧回覧の旅」でありました。そこには現代の世界の中の日本を見抜く平成のサムライの真摯な姿がありました。その背景には、岩倉使節団に比すべき高い志、使命感、深い教養、そして本気で考え抜く力があったに違いありません。いまや洪水のごとく押し寄せてくる情報にどう対処していくか、その玉石混淆の中からいかに玉を拾いその本質を見抜くか・・寺島氏はその鍵を、静かに考え、粘り強く考える、脳力だと表現しました。現実を見る、情報を集める、考え抜く、この三者が揃ってこそ、世界の中の日本の現在位置が的確に把握できるのだと思います。

久米は「世界ノ真形ヲ瞭知シ、的実ニ深察スベシ」と書きました。この言葉のもつ重要性を改めて認識し、それに果敢に挑戦していくことが、今、日本の指導的立場にある人にとって最も求められていることだと思います。

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