グローバルジャパン研究会:7月度開催報告「波頭亮氏の語る日本の未来」

日時 2022年7月22日(金)10時から12時30分
場所 zoom
参加者 17人
テーマ 波頭亮氏の語る日本の未来

議事要旨
2人から報告があり、その後議論を行った。

(塚本)
12月のシンポジウムにご参加いただくことになった波頭亮氏の著書、YouTubeを参考に、同氏の日本の未来への考え方をまとめてみた。一言で言うと、西洋合理主義は今や様々な問題に直面しており、日本はこれとは異なる考え方を持つべきだということである。先日お会いしたとき、友人の元同志社大学教授の中田考氏はイスラム教徒だが、イスラムの考え方の方が、人生をハピーに生きられると言っておられた。今、時代は大きな変わり目にあり、資本主義も、民主主義も行き詰まっており、「大きな物語」が必要だ。波頭氏と磯田道史氏との対談では、江戸時代にも同じような停滞の時代があったとのこと。その大きな要因は、社会の発展にあまり関わっていない武士が禄を喰み、黒船の脅威にも役に立たない刀で対抗しようとしたことだ。今、大企業で働く人たちも、発注するだけで、クリエイティブな仕事は下請けにやらせているようなところがある。資本主義は、これまで多くの国の発展を支えて来た。しかし、二度のオイルショックや軍事費の増大による財政赤字などを契機に、レーガンやサッチャーが新自由主義経済政策を行った。この新自由主義が90年代になって暴走し始めた。アメリカでS &Lの破綻、エンロン事件などが起こり、当初は経営者の責任が追及(S &Lは300人以上が財産没収、エンロンCEO禁固刑)されたが、リーマンショックでは、刑事罰がなく、多額の退職金で勇退が認められた。新自由主義がもたらす格差と貧困は大きく、米国の上位1%が、国の資産の35%、次の19%が51%を所有しており、残り80%は、国の資産の14%しか所有していない。日本でも2つの格差がある。先ず、企業と国民の格差。企業の内部留保は1997年から2017年までで、143兆円から446兆円に増えているのに、雇用者所得は年間平均467万円(1997年)から441万円(2017年)へと減っている。非正規社員数は1152万人(1197年)から2090万人(2020年)に増えている。富裕層と貧困層の格差も増えており、2000年から2015年までに金融資産ゼロ世帯が2.8倍になり、逆に金融資産1億円以上の世帯が1.5倍になっている。民主主義も機能不全だ。社会運営のあり方を実際に決定し、「自由と平等」を手に入れているかと言われて、明確にイエスと言える人は少ないのではないか。どうすれば、日本の格差が是正されるか。波頭、スズキ トモ、山崎元の「新しい経済をrethinkせよ」(YouTube)では、企業の内部留保(2017年 446兆円)を有効活用すべき、行き過ぎた配当重視を改めるべしと主張。ユニリーバのCEOは「配当を減らし、短期利益主義との決別」を主張し、当初は株価が8%下落したが、その後株価は回復した。北欧のオルタナティブも注目すべき。北欧諸国は、大きな再配分と企業活動の自由化を両立させ、1人当たりGDPは高く、幸福度ランキングでもフィンランド1位、デンマーク2位など。AIのインパクトは大きい。かなりの労働がAIに代替される可能性があるが、大事なことは、AIという社会を革新するテクノロジーをいかにポジティブに活用するかだ。新しい時代の大きな物語をどう紡ぎ出すか。波頭氏と林千晶さんとのYouTubeでは、これからはGDPを目指すのではなく、QOL(クオリティー オブ ライフ)を目指すべきとする。ある営為を行うことが、何かのための手段ではなく、それ自体が究極の目的であるようなエウダイモニア(幸福の行為)を目指すべき。その際、コミュニティーの役割が大きい。林千晶さんは、飛騨市の事例を挙げているが、東京でも、多摩ニュータウンで、使われなくなったスーパーを住民の手でコミュニティーの場として活用した事例が新聞に載っていた。世田谷区も、住民のコミュニティー活動をバックアップすることに熱心で、妻がかかわっている鉄塔ひろばにかなりサポートしてくれている。安宅和人氏の「シン ニホン」では、5つのアクションを提言している。1 年齢性別による雇用差別を禁止する2 高齢者の活躍を生涯サポートする仕組みとテクノロジーを生み出す3 生まれたときから年金を積み立て、運用する仕組みを構築する4 技術の力で身体の問題を治す試みをさらに進める5 尊厳死を合法化する。岸田内閣も新しい資本主義を具体化する政策を進めようとしている。

(泉)
議論に当たって、3つのことを考えたい。1 現代は「人類的な危機」にあるという認識。ロシアとウクライナの戦争は、最早、第三次世界大戦に入っているというべきか。トリプルクライシスの実態。(1)大自然からの逆襲;資源収奪、地球汚染、大気候変動、異常気象など(2)微生物からの反乱;コロナからの波状攻撃(3)議会制民主主義国家と独裁専制主義国家との激突 2ユーフォリア・ノーテンキの「極楽日本なる幻想」の終焉(1)国債担保の異次元異常の大盤振る舞いとポピュリズムの20年(2)三代目的放漫放縦国家の「暖衣飽食・娯楽サーカス」大作戦(3)アベクロの巨大賭けの膨大なツケが回ってきた!(円安とインフレの大進行で日本の資産が買い取られる)3 明治維新のゼロベースの大革新が必須という認識(1)明治維新的(廃藩置県的)、戦後のGHQ的大手術の必要がある(2)価値観の大転換;GDPからQOLへ、モアモア文明から適適文明へ。日本は米国や中国とは異なる。適度の大きさの国としての発展を目指すべき(3)地球的な哲学(理念)と壮大なビジョンを考究すべし。〜「シン・ニホン」並びに「シン・コクレン」を構想せよ〜

その後、皆さんから次のような議論があった。
-デンマークの話があったが、「米欧亜632日の旅」の部会では、次回北欧を取り上げる予定。デンマークについては、以前佐野元デンマーク大使から幸福度世界一の理由として、ヒュッゲという言葉を聞いたのが、印象的だ。これは「何人かが集まって穏やかな時間を過ごそう」というものだ。コミュニティーの話があったが、新潟の旧山古志村では、錦鯉のデジタルアートを仮想通貨で売り出し、購入者には市民権を与えるというプロジェクトが実施されている。今や、語っているときではなく、実践する時代に入っている。

-世界の人口を見ると、自分が子供の頃は、20億人、これが40億人になり、今や79億人になっている。資源や水が足りなくなるのは当たり前。成長は無理だ。日本でも、GDPが増えても、反対に幸福度は減っていくという研究(幸福のパラドックス)あり、政府の資料でもこのような分析がある。大事なことは、働く、学ぶ、楽しむの3つの要素を人生の段階に応じて、変えていくことだ。具体的には、45才では、会社の中での出世に見極めをつけて、会社と社会のバランスを自分なりに考えること、60才では、さらに、学ぶ、楽しむのウェイトを高め、70才では、働くのではなく、ハタを楽にする考え方が大事だ。

-資本主義、民主主義国対独裁専制主義国の対立が深まっていることが大きな懸念だ。

-西側諸国のリーダーのアメリカの分断が広がっていることが心配だ。アメリカのリーダーシップがこれからどうなっていくのか。

-資本主義の暴走、民主主義の機能不全と、AIはどうかかわっているのか。ちょっと、よく分かりにくい。→資本主義の暴走によって生じた格差を再分配政策などにより是正するのは、政府の役割だと思う。具体的には、累進課税を高めるなどの方策もある。また、企業が、紹介したユニリーバのように、配当政策を改めることも、あり得る。AIは、今後、人々の労働を代替することになるので、究極的には、ベーシックインカムということで、再配分政策にもかかわってくる可能性がある。

-先程紹介のあった山古志村のシステムは、とても重要な動きと認識している。すなわち、ブロックチェーンの技術を使って、賛同する人々からお金を集めて、市民権を与えるというもので、資本主義の次の時代の分散型自立組織と考えている。また、安宅和人氏の本によると、日本では2000兆円の金融資産が活用されないままだが、アメリカでは、大学でも資産をうまく運用して、ハーバードやMITなどは、東大の500から600倍もの大きな運用金を持っている。失われた30年の間、日本は、金融の力を全く発揮して来なかった。スェーデンの成功の大きな要因は規制緩和だ。日本は、規制緩和がまだまだなされていない。ベンチャー企業も、資金の調達の規模が小さいうえに、規制の壁に阻まれている。AIの進化はすごい。芸術、哲学の分野まで進んでおり、禅の公案までAIが答えうるような時代になっている。

-久米邦武は、西洋の民は欲深き民であり、国も人々を富ませることを第一に考えているが、東洋には王道という考えがある、ただ、今は、国を富ませることを考えざるを得ないと述べている。今日の議論は、基本的に西洋の資本主義、民主主義が機能不全に至っているというものであり、我々は、今後どうすればよいか、色々考えさせられた。人生の各段階に応じて、働く、学ぶ、楽しむの3つの要素を使い分けるという考え方も興味深く聞いた。波頭氏と磯田氏のYouTubeも面白く見た。江戸時代は停滞もあったが、その中で、「まつ(服)ろわぬ人」、すなわち、世の中の流れに従わない人々が生まれたこと、これこそ文化の基本であるという指摘も面白かった。さらに、日本人は、いったん出来た体制をなかなか変えられない、黒船や戦後のGHQなどの外圧がないと、抜本的な改革は出来なかった、今後、ありうるとすると、南海トラフの大地震かもと、磯田氏は言っていた。確かに変えることは難しいかもしれないが、変えられるとすると、教育ではないかと考える。波頭氏と伊藤穰一氏とのYouTubeも面白かった。伊藤穰一氏は、自分は自閉症だと告白し、ノーベル賞の学者の多くは自閉症で、特殊な才能を持った人を認めて、一律的な教育を改めるべきと主張しているが、その通りだと考える。それぞれの才能を活かして、楽しく学べるような教育を行うことで、災害ではなくて、教育で日本を変えたいと思う。AIについて、伊藤穰一氏は、これからはWeb3の時代だと言っている。ブロックチェーンを使った自立型の仕組みで、これからはバンクレス、さらには、ステートレス、すなわち、銀行も国家もいらない形になると言っている。

-分断された世界で、70億人以上の人々がいかに平和に暮らしていけるようにするのか、国連の改革以前に、それぞれの国が幸福に暮らせるにはどうすべきか考えるべき課題だ。

-今後、どうすべきか考えるとき、大事なことは、2つだ。先ず、やり方を変えること。今までは、PDCAでやって来たが、今後は、先が見えない混沌とした時代と言われており、その場合は、OODA(observe、orient 、decide 、action)が大事と言われている。2つ目は、社会を変えるトリガーを見つけることだ。今の時代では、ITが大きな変化をもたらすものになっている。学びについても、zoom、YouTube、Googleを使えるかどうかで、全く異なる。途上国の人々もITでは、電話線を敷かずに、携帯電話で繋がることが出来る。

-色々の論点が出されているが、こうした問題を5年先で考えるか、30年先で考えるか、また、日本だけで考えてもダメで、他の国のことも考えないといけないので、なかなか難しいというのが、実感だ。

-今日の議論で、何人かが、国の視点だけではなく、コミュニティーの視点で考えるべきといわれたことが、印象的だった。

-今日は色々の論点が出て、活発な議論があってよかった。それぞれの論点について、さらに熟議が行われることを期待したい。

(文責 塚本 弘)

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