このたびの例会に水沢周氏を招くことが出来たのは大変な幸せだと思っています。
ただ2時間足らずの間では氏の薀蓄のごく一部しうかがえなかったのはやむを得ません。
このたび中央公論社で文庫化された氏の大作「青木周蔵」(上中下3巻)は、編集者がいみじくも評したように「多岐にわたる文献資料を駆使した、著者渾身の長編人物評伝」です。それは縦糸に異色の外交官・青木周蔵とその周辺人物を配しながら、緯糸に明治国家形成史を幕末の長州から明治後期の日本そしてドイツや中国さらには全世界にまで広げて、巨大なタペストリーに織り上げた傑作だと思います。しかもそれはまさに「岩倉使節の旅」の前後を含む時代背景とぴったり符合しているのです。
そして氏の著述の中で最も力点が置かれているのが、明治憲法の成立過程だとするならば、それはまた岩倉使節の一番の旅の土産であった木戸や大久保の憲法建議ともダブってみえてくるのです。つまりこの視点からすれば「明治という国家」の成立過程がさらに立体的に鮮明に浮かび上がってくるのではないかと思われるからです。
著者はその「あとがき」でこう述べています。
「私にとって青木周蔵のこの物語は、明治の外交、内政の相互干渉史・生活史などを通じて、現代日本そのものを見直すためのレンズだったのだとも考えている」。
まさに「温故知新」です。歴史を振り返ることは即現代社会を見直すことです。歴史部会は水沢氏の協力を得て当面グループのテーマを「明治国家の形成史」に絞っていこうとの意向のようですが、その展開に大いに期待したいと思います。