GJ研究会:12月部会報告「IT大国フィンランドとシンガポールの同質性・異質性

*日時:平成29年12月16日(土)13:30~16:30
*場所:国際文化会館402号室
*演題:「IT大国フィンランドとシンガポールの同質性・異質性
―低成長下の幸福社社会か、高成長下の窒息社会か」
プロフィール:
1968年東京大学工学部都市工学卒、1968年通商産業省入省(塚本弘氏と同期入省                     1993年工業技術院技術審議官               1994年国際応用システム分析研究所(ILASA在ウイーン)同技術顧問(2009年まで)                    1995年東京工業大学院社会理工学研究科教授(経営システム・インステイチューショナル・イノヴェーション)          2009年同・名誉教授
2009~2016年シンガポール国立大学客員教授、                         2009~2016年フィンランドユヴァヌキュラ大学客員教授
2016年~同大学 研究教授

<講演要旨>
渡辺千仭氏のキャリアの中で2009年~2016年の8年間をシンガポール国立大学とフィンランドのユヴァニュキュラ大学の客員教授として過ごされ、今尚、ユヴァニュキュラ大学の研究教授としてご活躍されている氏が肌身で実感した両国の同質性と異質性に就いてICTの発達度(ITC世界ランク)と実質GDP成長率、幸福度・格差・出生率等との相関関係を示しながらIMF、World Economic Forum(WEF),The Earth Institute, ILO, WHO 等からのデータを駆使され、実体を浮き彫りにされた事は大変興味深かった。今回のテーマとなっているフィンランド、シンガポールがICT世界ランキングは1位と2位のデジタル先進国であるが、2006~2013年間の平均実質GDP成長率を見るとフィンランドが0.57%に対してシンガポールは5.85%と、説明された12か国中最も高いが、福祉・幸福度からは最低水準に位置し、反対にフィンランドは最高水準に位置する。スエーデン・ノルウエイ・デンマーク等北欧諸国はデジタル先進国に位置して居り、高福祉・幸福を謳歌するも何故かおしなべて経済は低成長である。これ等のデジタル先進国の、「低成長・高福祉」と「高成長・低福祉」の好対照は、デジタル経済化の「(GDPベース)成長の概念の変容」や「国民選好のシフト」に起因するのではないかと氏は指摘する。この点を氏は更に深堀して2013年と2016年のデータ数値の変化を示しながら両国の同質性の中でフィンランド、シンガポール共に初等教育、高等教育の質の向上に力を注ぎ、世界ランクのトップクラスに入っているのは両国ともに建国以来の政治的・経済的背景が起因していると氏の両国の“リーダーの足跡”の説明の中で触れている。ここでは詳細は省略するが気になる事は“人的資源”において2013年と2016年の比較ではフィンランドが2位―>1位に対してシンガポールは3位―>13位と落ちている。そして“国際競争力”においてはシンガポールが2位―>2位堅持しているのに対してフィンランドのそれは3位―>10位と低下させている。両国ともに初等教育・高等教育の質に於いて世界のトップクラスに位置しながら何故低下したのか?という疑問が湧く。氏はこの疑問に対して1)デジタル経済化の成長・競争力の概念が変わり、物差しを替えなければならないのではないか。2)ICTの高度デジタル化対応にシステムの齟齬があるのではないか。3)教育システムが高度デジタル化社会に対応していないのではないか。と答える。

別な観点から両国を比較すると、人口は両国ともに(2015年)5.5百万人と同じ、面積はフィンランドがシンガポールの約48倍、人口密度は(2013年)シンガポールの7,713(人/Km2)に対してフィンランドは18(人/Km2)であるが、フィンランドは生存を維持するためにコミュニケーション能力の発達の必要性から情報通信技術が発達したとも云えると氏は指摘。また、エネルギー自給率はフィンランドが50%(2011年)で原発及び世界初の核燃料リサイクル施設を保有しLNGや再生エネルギーに力を注いでいるのに対してシンガポールは1%(2010年)と化石燃料など殆ど輸入に依存している。大学進学率(含む短大)ではフィンランドが93%(2012年)に対してシンガポールは32%(2014年)と低いのには新たな驚きである。これ等の両国の差に就いて、氏は両国の“生涯教育システム”の違いにその解を見出す事ができると。即ちシンガポールでは幼児教育(生後2か月~6歳)から小学校に入る段階でテストがあり、ここの選定が生涯における進学の鍵となる。12歳で更に初等学校卒業試験を受けその結果で4年コースか5年コースに峻別され、16歳で普通教育認定試験に合格してジュニアカレッジに進学して上級試験を目指す17歳時に徴兵検査を経て2年間軍隊訓練に参加するが、進学者は延期も可能、いずれにしてもテスト、テストで、各段階で峻別され大学進学まで漕ぎつけるのは容易な事ではない。一方、フィンランドは0歳児~5歳児までの幼児教育含め、就学前教育、小・中学一貫教育(7歳~16歳)が全生徒に施され、17歳からの2年間、男子のみ兵役が義務付けられている。この2年間では礼儀作法やコミュニケーション能力が鍛えられ、それ以降の人間形成にも大いに役立つ。17歳からその後高校卒業資格試験として全国統一テストが行われ、その上に大学、大学院、博士課程と平等に道が開かれている。勿論授業料はただであり、給食費や図書費用なども奨学金でカヴァーされる。従って結果として大学進学率が高く、小学校の教師でも修士号を保有している事は普通の事である。氏の結論は、フィンランドの教育システムの狙いは①平等性②に生涯教育③分権化(自治体などに自由度を認めるなど信頼度が高い)に対してシンガポールの教育システムが歴史的に①生存のための教育であった事(1959~1978年)②効率的な教育に走った事(1979~1996年)③能力主義・上昇志向である事(1997年~)と指摘している。

前述したようにデジタル先進国の生産性低下について詳細説明へと話は進む。

デジタルサーヴィスから得られる「豊かさ」を「消費者余剰」ともいう。生産者余剰はGDPに織り込まれるが消費者余剰は織り込まれない。これを「非計測GDP(Un-captured GDP)」というが、この数値が年々増大傾向にあり、注目されている。

この理論を世界的に広めた3人を紹介。“The Great Stagnation(2011)の著述家Tyler

Cowen(George Mason Univ.),”The Second Machine Age(2014)の著述家Eric Brynjolfsson、MIT、Annie Lowrey(New York Times)彼女は“The Internet promotes a free culture, the consumption of which provides utility and happiness to   people but cannot be captured through GDP data that measures revenue.と述べている。

氏は計測不能=超機能(経済的機能を超えた)には「社会的・文化的・憧憬的・帰属的・感情的機能」があり、具体的には省エネ・Small is beautiful・エコ・クール・感性・PB・奉仕・詫寂など説明は進む。更にフィンランド、シンガポール両国がインターネット・非計測GDP・超機能が共進しながら、経済価値を超えた超機能を増大させ国民選好が変容して行き、またGDPの増大から非計測GDPの増大へとパラダイム変化を起こしている、と。ICTの総合レベル世界ランキングでは2013年以来フィンランドとシンガポールは1位と2位を分け合っている。主体別ICT利活用世界ランキングを見てみると個人使用では2016年はフィンランド6位、シンガポールが12位、ビジネス使用を見るとフィンランドが8位、シンガポールが10位、政府使用ではフィンランド21位、シンガポールは3位である。このことから見えてくることは、フィンランドはビジネス・個人主導であり、シンガポールは政府主導あること。また、ICTによる学習支援に関してはフィンランドが“生涯学習評議会(教育機関・労働組合・産業界・官公庁代表)主導で行っておりcustomer friendlyに対してシンガポールは”うるさい、いやならやめろ”式の教育省(MOF)が主導である点も興味深い指摘である。

氏は結論として次の5点を掲げ、本講演を締め括れられた。

  1. グローバルデジタルイノベーションは①デジタル化の進展、②パラダイム変化③国民選好の変容の3つのメガトレンドの共進サイクルの高度化シフトに符合
  2. フィンランドの低成長下の高福祉は、国民選好の超経済価値シフトに呼応する非計測GDP依存へのシフトに依拠。シンガポールの高成長下の低福祉は在来的なGDP依存共進サイクルへの固執に依拠。
  3. 世界的に消費選好が、超経済価値にシフトするなかで、フィンランドは低成長ながら海外からの収益を増大。逆にシンガポールは、高成長ながら国内収益を国外に流出。
  4. 政府主導の、多国籍企業依存イノベーションからの転換、官製国家形成軌道からの脱皮がシンガポールの次の発展の課題。
  5. フィンランドの全員参加型国家形成軌道は貴重な示唆。フィンランド自身も、世界の共進サイクルの高度化シフトを見据えた諸体系の再構築が緊要。                      以上(文責:畠山朔男)

 

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