実記を読む会:5月部会報告「第30・31章」

<参加者6名。第30・31章を対象に数個所の音読を交え内容のまとめと解説を行った>

一行は9月7日マンチェスターから鉄路でグラスゴー市(以下G市)へ。経由地カーライル市以北がスコットランドであることから、スコットランドとイングランドの歴史的抗争の遺産、ハドリアヌスの長城とアントニヌスの長城及びスコットランド独立の英雄戦士W.ウォレスの生涯を描いた映画「ブレイブハート」の紹介を加えた。当時G市はスコットランド随一の人口47万人を擁する工業都市。久米はその活況ぶりを、夜中でも工場の煙突が火を噴き赤々と天を焦がすようだと描写している。一行はG市及び周辺都市で、鉄工所、蒸気機関車製造工場、銑鉄工場、造船用鉄材等製作所、塗装工場、建造中の蒸気船、製糖工場を精力的に見学。これまで同様、久米は精密な現場記録を残しているが、唯一銑鉄工場の炉の仕組みは「ヨク辨知スル所ニアラズ」と記す。企業秘密だった故か。

一方株取引所、商工会議所、同業組合の見学や関係者との接見から、久米はこれらの機関の役割と意義を解説。現代語訳の注では訳語の不適切さや理解の不十分さが指摘されているが、近代の曙のこの時期にこうした経済団体に着目し解説した意義は十分にあるのではなかろうか。

さらに久米は英国の政治特性にも言及し、ロンドンのウェストミンスター周辺では王権の行き届く立君制、シティや各都市では企業の自由が確立した共和制、田園地帯では貴族専制と、三様の政治が並立している根底に、自由の重視、法律の作成、遵守の仕組みが存することを指摘する。これも現代語訳注では、これを久米の商業的社会構造論と捉え、彼が東洋の徳治主義を脱せず利益中心社会の理解が不十分だと批判している。だが、当時の第一線の文化人が自らの眼で英国社会をいかにとらえたかという点に意義が置かれてもよかろう。

G市で一行は貴族院議員ブランタイア氏宅で食事、宿泊の接待を受けたが、滞在最終日に同氏の案内で氏所有地内の屋内外施設や設備、作業人の職能等の見聞から自給自足の規模の大きさを実感する。ここから久米は西洋では借地借家は賤しまぬが、田宅所有者を豪富の家とみる。これは日本で高禄のある家が尚ばれるのと変わらぬが、歳入が百万を超える者の豪奢さは国王を凌ぐと感嘆している。

10日にエディンバラ市(以下E市)へ移動。14日まで市内ホテルに滞在する。E市はスコットランドが独立王国時代の首都で人口19万5千人。アテネに擬せられる風景の美しさを称えている。中一日の休息後、裁判所、産業博物館大学、宮殿、教会を見物。王宮関連でメリー女王の名高い悪行を野次馬的に詳述しているのは人間的というべきか。

一方、蒸気牽引車製造工場、ラバー工場、硬質ゴム工場、製紙工場を見学し各製作工程を例によって詳述。翌日は一日がかりで船で灯台を見学し、灯台の建設工程、構造、保守の仕組み等を学んでいる。次はハイランドへ。

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